キリストの死因を解明するため死体を磔刑に処した狂気の外科医!
十字架に磔にされたといわれるイエス・キリスト。しかし、イエスが受けた磔刑とは実際にどういったものだったのか。伝聞に頼るしかない当時の実際の様子は想像する他ないが、実験により実際の磔刑を実証しようとした狂気の医者がいた。
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※ こちらの記事は2022年10月9日の記事を再掲しています。
イエス・キリストはローマ帝国に対する反逆者として十字架に磔となって処刑されたとされる。
一般的に、十字架に両手首と両足首を釘で打ち付けられた受刑者は、即死できずに数日間苦しんだ後、体を支えられなくなって窒息死する。一方、イエスは磔になってから息を引き取るまで数時間しかかからなかったという。
イエスが短時間で死に至った謎は科学的な研究テーマとされてきた。その中でも、フランスの外科医、ピエール・バーベットの研究は常軌を逸していた。
イエスは十字架上で窒息死したのか?
ピエール・バーベット(1884~1961)は、パリにある聖ヨゼフ病院で主任外科医を務め、医学書『カルバリーの医師』を出版した。著書では、磔刑による死の主な原因は窒息であると主張した。十字架に磔にされた受刑者は、体の位置のせいで呼吸困難になるため、脚をまっすぐにして体を持ち上げ、息を吸わなければならない。そのため、体を動かすための体力が残っている限り死なない。つまり、イエスが磔刑で死亡したとすれば、窒息死したと考えられる。
バーベットの主張は、「アウフビンデン」として知られる拷問を根拠としていた。この拷問では、受刑者は手を頭の上で縛られ、つま先が地面にほとんどつかない状態で支柱に吊るされる。アウフビンデンの受刑者は30~90分で死に至ると報告されてきた。一方、古代の磔刑では、受刑者は十字架の上で足を休ませることができるため、数日間生きたと考えられる。
著書の中では他に、切断した人間の腕に釘を打ち込んで磔刑の仕組みを理解しようとしたことが記載されている。バーベットは遺体の腕や脚を使って数回実験を行ったという。
バーベットは、「頑健な男」から切り落とした腕の手の平の中央に大きな釘を打って磔にした。その後、45キロのおもりを肘に結び付け、引っ張られた手の平の肉が裂ける過程を観察した。約10分後、手の平の傷が広がってぽっかりと穴が開いたので、次に腕全体を揺さぶった。しかし、手の平が裂けて腕が床に落ちたため、そもそもイエスは本当に手の平を釘で打たれて十字架に磔にされたのか、疑問を抱いた。
聖骸布から考えられるイエスの死因
イエスが磔刑で窒息死したとすれば、息を吸うために体を持ち上げたはずである。バーベットは、聖骸布を調べたときにこのことを確認した。
聖骸布はキリスト教の聖遺物の一つで、イエスが死亡した後にその遺体を包んだとされる布である。1353年にフランス・リレのシャルニー家が所有しているのが発見され、現在はイタリア・トリノの聖ヨハネ大聖堂に保管されている。
聖骸布の真偽については論争が絶えず、科学的調査も行われてきた。1988年には、オックスフォード大学、アリゾナ大学、スイス連邦工科大学が放射性炭素年代測定を実施し、この布が織られたのは1260~1390年の間であると推定された。一方で、3機関が発表前に生のデータの公開を拒否したことなどから、推定結果の信憑性に対する疑問も噴出した。
この調査が実施される前に聖骸布を調べたバーベットは、手の傷から出た血が異なる2方向に流れているように見える痕跡があるため、イエスが十字架上で2パターンの姿勢をとったのではないかと考えた。そして、イエスはアウフビンデンの受刑者のように、呼吸が困難となる姿勢になってそのまま息絶えたと結論付けた。
これを証明するため、バーベットは自家製の十字架に死体を釘付けにする実験を行った。ローマの死刑執行人と同じように、作業を素早く乱暴に行って、死体を持ち上げた。その結果、死体が予想通りの姿勢となったことから、イエスは十字架の上でアウフビンデンの受刑者と同じ理由で死亡したと考えた。聖骸布の血痕は、イエスが息を吸うために体を持ち上げた証拠であるという。
イエスの死因は窒息ではなかったのか?
20世紀半ばまでイエスの死因は窒息死とされてきた。しかし、近年はこれに異を唱える説も少なくない。
米国人医師のトーマス・マクガバン氏は、イエスは失血によるショックで死亡したと主張する。イエスが窒息死したとしたら、福音書で伝えられているように、息を引き取る前に「わが神、わが神、どうして私を見捨てられたのですか」と叫べないと考えるからである。
米ニューヨーク州ロックランド郡の元主任検視官で法医学の専門家のフレデリック・トーマス・ズギベ氏は健康な志願者に磔実験を行った。釘打ちの代わりに被験者の手足をストラップで縛った。被験者の体はバーベットが述べたような姿勢となったが、呼吸困難を訴えた被験者は一人もいなかった。また、被験者は体を持ち上げることもできなかった。この実験結果をふまえてズギベ氏は、イエスが窒息死したわけではないという説に同意し、死因は出血によるショックであると自著で述べた。
さらには、イエスは十字架上で気を失ったため、死んだと思われたが、後に昏睡状態から回復して復活したとする説もある。
イエスの死について真相を解明する研究はこれからも続いていくのだろう。その基礎となる先行研究の一つとして、狂気じみているように見えるバーベットの研究も決して忘れてはならない。
参考:「Mad Scientist Blog」「The Daily Beast」、ほか
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