陰謀が渦巻く……本当は怖い「くるみ割り人形」

「白鳥の湖」と並んでバレエの舞台で人気の「くるみ割り人形」だが、そのストーリーはかつて世界で「最も不気味なバレエ」として知られていたという――。

■物語は「めでたし、めでたし」なのか?

 欧米の子供たちはクリスマスにくるみ割り人形をプレゼントされることもあるという。それというのも童話の「くるみ割り人形」はクリスマスイブからはじまる物語であるからだ。

 チャイコフスキーの同名の曲と共にバレエの舞台として世界中で愛されているのが「くるみ割り人形」だが、そのストーリーの背後に流れるモチーフは決して愉快なものではないという。

「くるみ割り人形」の原作はドイツの作家、E・T・A・ホフマンの童話『クルミ割り人形とねずみの王』であり、クリスマスイブにくるみ割り人形をプレゼントされた少女が体験する物語である。

「Mirror」の記事より

 7歳の少女、マリーは祖父から魔女の呪いで醜いくるみ割り人形になった男の物語を聞かされて同情し、私が可哀相な彼と結婚してあげるのだと決意を表明する。

 マリーはその貰ったくるみ割り人形に恋をし、人形を傍に置いてベッドで就寝した後、夢の中で彼が姿を変えて生き返るのを見ることができるようになった。この素晴らしい夢の中の体験についてマリーは家族に話したのだが、気味悪さを感じた家族はマリーに夢のことを話すのを禁じたのだった。

 ある夜の夢では、くるみ割り人形の男とネズミの王との間の激しい戦いが繰り広げられた。恐ろしい戦闘に動揺したマリーは転んでもたれかかった家具ごと倒れ、割れたガラス片で腕に切り傷を負う。

 傷を癒している間、マリーは醜いくるみ割り人形を愛することを誓った。次の就寝中に彼が生き返ると、遂に彼と結婚したのだった。

 結婚したことによってマリーは現実を永遠に離れ、夢の世界で暮らすことになる。

 いわゆる「めでたし、めでたし」と言えなくもないエンディングではあるのだが、本当にそうなのだろうか。

 物語の結末で、マリーは純粋に彼女の想像上の王子の世話をするためだけの存在になったのだとも言えなくもない。人形が支配する不気味で残酷な王国で永遠に支配される無力な少女という構図が完成してしまったのだ。

画像は「Wikipedia」より

■「くるみ割り人形」のメッセージとは?

 童話やファンタジーの中には、子供たちのマインドセットに影響を及ぼすべく意図されたものも少なくないのだが、この「くるみ割り人形」は少女たちどんなメッセージを暗示しているのだろうか。

 物語でマリーは愛する人と結婚することでエンディングを迎えることになるのだが、この女性の生き方は単純に伝統的ジェンダーロールを強化する方へと働くことになるだろう。

 また夢の中ではさておき、現実では醜いくるみ割り人形を愛することができるということは、結婚相手に対してきわめて“許容範囲”が広いことにもなる。逆に言えば夢の中では素敵な男性であるとすれば、現実では醜くとも許容できるのだろう。コミュニティの維持において誰とでも結婚できる女子の存在は重要だ。少女が疑似体験する物語としては何かと都合が良いともいえそうだ。

「Salon.com」の記事より

 クリスマスに上演されるバレエの舞台として世界中で愛されている「くるみ割り人形」なのだが、その人気の理由を考察した記事を米メディア「Salon.com」 に寄稿したエレン・オコーネル氏によると、この人気のバレエが子供たちを描き、子供向けであり、子供たちを活用しているという事実は、バレエ学校にとって理想的なショーケースとなるという。つまり興行の歴史を通じて主催者側にとって都合が良くなるように洗練されてきているというのである。

「クリスマスはあらゆる理由に反して魔法への信仰を奨励します。サンタが煙突に収まり、ステージ上の少女は命を吹き込まれた人形に恋をします。クリスマスを舞台にしたこのバレエは見たことがない人でも口ずさむことができる音楽を背景に、クリスマスシーズンに関する西洋のあらゆるメッセージを伝えます」(オコーネル氏)

 子供、特に少女へ向けた魅力的なコンテンツである「くるみ割り人形」だが、その裏にある大人の事情と企てを探ってみればいろんな発見がありそうだ!?

参考:「Mirror」、「Salon.com」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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