地獄への入り口「シビュラの洞窟」は存在した!?有毒ガスと熱湯の“灼熱地獄”
伝説の女預言者が根城にしていた地獄へ繋がる洞窟は本当に存在するのか。研究チームの10年間に及ぶ調査で明らかになった驚きの事実とは――。
地獄に通じる“シビュラの洞窟”は実在するのか
世界中の宗教と神話に“地獄”の概念がある。天上にある天国とは対照的に、地獄のイメージは地下深くにある“灼熱地獄”として描かれることが多い。この世のどこかの地中深くに地獄は存在するのだろうか。
イタリア・ナポリの西側に広がる「フレグレイ平野(Campi Flegrei)」は、多数の火砕丘を含む長さ13キロメートルにおよぶカルデラ地帯である。カルデラ内にはポッツォーリなどの都市があり約50万人が暮らしているが、実は再び大規模噴火を起こす可能性がある不気味な超巨大火山帯でもあるのだ。

西暦79年にポンペイを襲う大噴火を起こしたヴェスヴィオ山からそう遠くない古代の火山カルデラ台地であるフレグレイ平野は、蒸気や炎を吹き出す噴出孔、硫黄を噴出するクレバスなどが随所にある危険な活火山地帯である。
この地はギリシャ神話とローマ神話にもよく登場しており、太陽神アポロによって不死と預言の力を授けられた女預言者、シビュラ(sibyl)はフレグレイ平野のどこかにある冥界への入口としても機能する洞窟に住んでいたといわれている。

何世紀にもわたって好奇心に駆られた探検家や研究者がこの地を訪れて“シビュラの洞窟”を探したのだが、さしたる成果が得られなかった。
しかし1950年代にイタリア人考古学者、アメデオ・マイウリの調査チームが古代ローマのリゾートタウンであったバイア(Baiae)の遺跡を調べたところ、これまで知られていなかった洞穴の入口を発見した。明らかに大昔に人為的に作られたもので、マイウリらは中へと入ってみたものの、苛烈な熱気と渦巻く危険な火山ガスのためそれ以上の調査は断念を余儀なくされた。
実際に存在する“この世の地獄”
数年後の1960年代初頭、この“シビュラの洞窟”のストーリーに興味を持ったイギリスの考古学者、ロバート・パジェットは同僚のキース・ジョーンズとボランティアによる調査チームを結成し現地に赴いた。
“シビュラの洞窟”の入口はすぐに見つかったのだが、やはり調査は困難を極めた。熱とガスのために120メートルほどしか進めなかったが、洞窟がずっと奥深くにまで伸びていることは判明した。
パジェットらのチームは諦めずに粘り強い調査を続け、トンネルの中に堆積した石を外に運び出しながら地道に前進した。その結果、このトンネルは大きく複雑なトンネル網のほんの一部分に過ぎないことが明らかになったのだ。後にこのトンネル網は「グレート・アントラム(Great Antrum)」と名づけられた。
パジェットによればこのトンネル網は宗教施設の意味合いが強いものであり、宗教的儀式に使われていた可能性が高いということだ。たとえばトンネルの壁には蝋燭を立てる目的の穴が多くあり、秘密の通路に通じる両開きドアや、曲がり角を通過するまで訪問者がトンネルの次のセクションを見ることができない構造、通路を閉鎖するための回転式ドアや複雑な換気システムなどユニークな設計上の特徴があった。
洞窟の奥深くは、まさに“灼熱地獄”であった。気温は50度近く、有毒と思われるガスが充満しておりまともに呼吸することはできなかった。また煮えたぎった熱湯の川も流れていた。
最終的にパジェットのチームは、この広大なトンネルシステムを探索するのに10年近くを費やし、ここが伝説の“シビュラの洞窟”であるとの確信を得たのである。グレート・アントラムが作られたと推定される年代は紀元前550年頃で、シビュラが存在したと言われている時期とも一致している。
パジェットによればグレート・アントラムは冥界を通る旅を再現することを意図しており、この驚くほど現実的な地獄の光景は異教徒を改宗させるための非常に説得力のある“体験施設”であると考えられるという。そしてその説得の根拠となるのは、この場所が神話上の“シビュラの洞窟”であるという説明だ。

“シビュラの洞窟”は文字通りの地獄であり、ある意味では「地獄のテーマパーク」でもあったことになる。
パジェットの調査の成果とこの理論は、科学界からかなりの懐疑論を浴びせられ、あまり注目されることなく今日に至っている。その理由の1つには彼がアカデミックな考古学者ではないこともあるという。訪れるには危険過ぎる場所であるためこの“シビュラの洞窟”はこの後も脚光を浴びることはないのかもしれないが、ある種の“この世の地獄”が現実に存在していることは覚えておいてもよいのだろう。
参考:「Mysterious Universe」、ほか
※当記事は2022年の記事を再編集して掲載しています。
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