ナチスを攻略した米軍の極秘特殊部隊「ゴースト・アーミー」とは!?“幽霊のように実体がない”最強戦士たちの真実

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ゴースト・アーミーの記章(1944年頃) 画像は「Wikipedia」より

 武力衝突だけが戦争ではない。知略と策謀をめぐらせた果てに誕生したのが“ゴースト・アーミー”だ――。彼らの戦力は、ゴム製のオモチャの戦車であったというから痛快だ。

■ユニークな特殊部隊“ゴースト・アーミー”とは

 第二次世界大戦下のヨーロッパ戦線で精強ナチス・ドイツ軍を煙に巻く秘密の特殊部隊があった。それは米陸軍第23本部付特殊部隊で通称“ゴースト・アーミー”である。その名の通り、幽霊のように実体がない非戦闘部隊であったのだ。

「ゴースト・アーミー」としても知られる第23本部付特殊部隊は、熟練の作戦参謀に芸術家と音響、それに無線の専門家が加わって結成されたユニークな極秘の特殊部隊である。

 ゴースト・アーミーは1944年5月から1945年の間に24のミッションを遂行し、ヨーロッパ戦線においてナチス軍を欺き続け、その結果、何千もの連合軍兵士の命を救ったとされている。その存在は終戦後50年近くも秘密にされていて、1990年代半ばになって機密指定が解除されその存在が明るみになった。

 米ルイジアナ州ニューオーリンズにある戦争博物館「The National WWII Museum」の学芸員であるラリー・デクアーズ氏は「過去の戦争において敵を欺く作戦は通常は一時的なものでした。しかしこの部隊は敵を欺くために特別に設計されたゼロからの部隊でした」と部隊の特殊性を説明する。

 そのアイデアの由来はかつてのイギリス陸軍の作戦にあった。1942年にイギリス陸軍は北アフリカで2000台を超えるダミーの軍用車両を配置し、少しだけ見えるようにカムフラージュしたのである。これに気づいたナチス・ドイツ軍は侵攻作戦を中止したという。

 82人の陸軍将校と1023人の兵士で結成されたゴースト・アーミーには美術大学の学生やファッションデザイナー、写真家、画家も含まれていた。デクアーズ氏はこのゴースト・アーミーには4つの鍵となる要素があると解説している。

 1つ目は“オモチャ戦車部隊”である。特別に作られたゴム製の膨張式ダミー戦車は兵士数人で運ぶことが可能で、現場で空気を入れて膨らますと遠目に見れば実際の戦車のように見えるという巧妙な“オモチャ戦車”であった。作業は20分ほどで完了したという。

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「Live Science」の記事より

 2つ目の要素は、偽の無線信号である。熟練した無線の専門家が米陸軍のモールス符号を巧妙に模倣して、この部隊が本物の軍隊のであるかのように偽装することができたのだ。

 3つ目の要素は音響である。軍事訓練演習と塹壕と橋の建設の音を録音し、音響エンジニアがそれを編集して臨場感溢れる音源を作成。この音源をドイツ軍に聞こえるように大きなスピーカーで流したのである。つまり現地で何らかの活動が行われていることを偽装したのだ。

 4つ目の要素は味方の部隊に成りすます雰囲気の偽装である。他部隊の部隊章や師団章も作戦ごとに周到に車両や軍服につけ、実在する部隊があたかもそこにいるように偽装し敵を混乱させたのだ。

 ごく少数の砲弾しか持たなかったゴースト・アーミ―は、こうしたギミックでナチス・ドイツをヨーロッパ各地で煙に巻いたのだ。

■600台の“オモチャ戦車”作戦

 デクアーズ氏によればゴースト・アーミーがその真価を十二分に発揮したのはドイツ・オランダ国境の「フィールゼン作戦」であったという。

 1945年3月18日から3月24日まで行われたこの作戦では、ライン川沿いに600台の“オモチャ戦車”が配置され、他の実在する部隊の兵士になりすまして作戦が遂行された。部隊を展開した後には橋を建設する音源を流して、ライン川を横断する橋を建設中であると敵に信じ込ませたのだ。

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「Live Science」の記事より

「ドイツ軍を欺いて、第30歩兵師団と第79歩兵師団がライン川を渡る準備をしていると信じ込ませようとしました」(デクアーズ氏)

 この後ドイツ軍は自軍の大部分を移動させ、敵の2つの師団がいると思い込んだ場所を砲撃した。そしてナチスはこのゴースト・アーミーに気を取られているうちに、実際の敵の本隊を見失ってしまったのである。

 ゴースト・アーミーの活躍ぶりは実に痛快だが、戦での“騙しの手口”そのものは古来より研究されていることもよく知られる通りだ。

 最も有名な例の1つは紀元前8世紀の“トロイの木馬”だ。ギリシア軍は高い城壁に囲まれたトロイアの街を攻略するために巨大な木製の馬の贈り物を受け取らせ、その中に潜んでいた兵士の活躍がトロイア戦争の勝利につながったのだ。また古代中国では有名な“孫子の兵法”もあり、その中では戦における騙しの手口がいくつも挙げられている。

 面白い話としては、南北戦争中の南軍では丸太を彫刻して大砲に見えるように塗装したものを野営地の周りに配置していたという。これを北軍のスパイに見せ、武器と物資が不足していないことを偽装したということだ。

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「Live Science」の記事より

 このように戦における騙しの手口は古来よりあるのだが、このゴースト・アーミーは騙すことに特化して結成された最初の軍隊ではないかといわれている。彼らの足跡は戦争の歴史においてユニークな輝きを放ち続けるだろう。

参考:「Live Science」、ほか

 

※当記事は2020年の記事を再編集して掲載しています。

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