【歴史の偽造】フランスと日本、二つの国を揺るがした考古学史上最大のスキャンダル ― “ゴッドハンド”たちの栄光と失墜

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 もし、歴史の教科書に書かれていることが真っ赤な嘘だったとしたら…?フランスと日本。全く異なる二つの国で、奇しくも似たような、そして考古学の歴史そのものを揺るがす、壮大な「捏造事件」が起きていた。片や、先史時代の常識を覆す“ありえない遺物”の発見。片や、日本の歴史を数十万年も遡らせた“神の手”による奇跡の発掘。しかし、その輝かしい発見の裏には、名声を求める者たちの、黒い欲望が渦巻いていた。

フランス、1924年―アルファベットの起源を覆す“グロゼルの遺物”

 1924年、フランス中部の小さな村グロゼル。農夫が畑を耕していると、偶然にも先史時代のものと思われる墓を発見した。報せを聞きつけ、意気揚々と発掘に乗り出したのが、アマチュア考古学者のアントナン・モルレだった。

 彼が掘り出した遺物は考古学界を震撼させた。その地層は、約1万2000年前の新石器時代のものであるはずなのに、そこからは、数千年後に発明されたはずの「土器」や、さらには「アルファベットのような文字が刻まれた粘土板」までが出土したのだ。

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By Salomon Reinachhttp://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k205173m, Public Domain, Link

 もしこれが本物なら、西洋のアルファベットの起源は、定説のフェニキア人(紀元前2000年頃)より、遥か8000年も遡ることになる。先史時代の歴史が完全に書き換えられてしまう、世紀の大発見だ。

 フランス中の新聞は、この「グロゼルの遺物」を一面で報じ、モルレは一躍、時の人となった。しかし、当初から専門家たちの間では「捏造ではないか」という強い疑念が渦巻いていた。

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By Agence de presse Meurisse – Bibliothèque nationale de France, Public Domain, Link

科学者 vs メディア―泥沼化した“真贋論争”

 論争は、考古学界だけでなく、メディアを巻き込んだ国民的な大騒動へと発展した。「グロゼルのアルファベットは、既知の古代文字のごちゃ混ぜにすぎない」と、捏造を主張する専門家。それに対し、「これは西洋文明の起源が、東方のメソポタミアではなく、ヨーロッパにあったことを証明するものだ」と、発見を支持するメディアや愛国者たち。

 事態を収拾するため、1927年、ついに国際的な調査委員会が組織された。彼らは、数日間にわたる厳密な再発掘調査の末、「この遺跡は古代のものではない」と結論づけた。現場の地層は乱れており、遺物の出土状況も不自然だったのだ。

 しかし、一度燃え上がった熱狂は簡単には収まらない。モルレと彼の支持者たちは、調査委員会の結論を「権威による陰謀だ」と非難し、その後も数十年にわたり、グロゼルの正当性を主張し続けた。

日本、2000年―“神の手”と呼ばれた男の転落

 そして、フランスでの騒動から約70年後。地球の反対側、日本でも考古学の歴史を根底から覆す、驚くべき“大発見”が相次いでいた。その中心にいたのが、アマチュア考古学研究家の藤村新一だ。

 彼は、宮城県の上高森遺跡などで、70万年前とされる日本最古の旧石器を次々と“発見”。その驚異的な発見率は、いつしか「ゴッドハンド(神の手)」と称賛されるようになった。日本の歴史は、彼の発見によって一気に数十万年も遡ったのだ。

 しかし、2000年11月5日、毎日新聞の朝刊が、その“神話”を打ち砕く。そこには、発掘現場の穴に、事前に石器を埋めている藤村の姿が、はっきりと写っていた。

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なぜ、誰も“嘘”に気づかなかったのか

「ゴッドハンド」の正体は、あまりに稚拙な自作自演の捏造だったのだ。彼が“発見”した石器のほとんどは、別の場所で拾い集めた縄文時代の石器を、夜陰に紛れて埋めたものだった。

 なぜ、25年もの間、誰も彼の嘘を見抜けなかったのか。

 そこには、グロゼルの事件とも共通する、いくつかの要因があった。まず、考古学界内部の「大発見を待ち望む」空気。そして、その発見を「町の活性化に利用したい」と願う地元関係者の期待。さらに、彼の“発見”に疑義を呈した少数の良心的な研究者たちを学会全体で排斥し、黙殺してきた閉鎖的な体質。

 これらの要因が複雑に絡み合い、「藤村新一」という、一人のアマチュア考古学者を誰も止められない“怪物”へと育て上げてしまったのだ。

 グロゼルの遺物も、日本の旧石器も、その多くは歴史の教科書から抹消された。二つの事件が我々に突きつけるのは、科学というものが、時にいかに脆く、人々の願望や名声欲によって容易に歪められてしまうか、という不都合な真実だ。

 歴史とは発見されるものではない。それは、検証され、時に疑われ、そして常に書き換えられる可能性を秘めた終わりのない探求の物語なのである。

参考:The ConversationWikipedia、ほか

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