AIによる物語に頻繁に登場する謎の男「エリアス」と人工知能が引き起こした“モード崩壊”

「遠く忘れ去られた王国に、世界中で名を知られるエリアスという名の地図製作者が住んでいた……」
これは、あるユーザーがChatGPTに「物語を作って」と頼んだ際に、AIが実際に生成した一文である。
もしあなたが今、英語でAIチャットボットに「何か物語を書いて」と頼んだら、高い確率で「エリアス・ソーン(Elias Thorne)」という名の人物が登場するかもしれない。彼は人里離れた灯台の管理人だったり、あるいは図書館員、時計職人、探偵、地図製作者だったりする。いずれにせよ、どこかノスタルジックで物憂げな職業に就いているはずだ。なお、これはあくまで英語で生成させた場合の話で、日本語で頼んでも「エリアス」が湧き出るわけではない。
なぜ世界中のAIたちは、存在しない「エリアス」という男と「灯台」の物語を狂ったように書き続けているのだろうか。
AIの脳内を支配する「11のキーワード」
科学メディア『IFLScience』によると、最近発表された研究(査読前論文)で、4つの主要な大規模言語モデル(LLM)が生成した2万件のストーリーを分析したところ、なんと4分の1以上の物語に「エリアス」という名前が登場していたことが判明したという。
さらに異常なことに、「エリアス」「エララ」「マラ」といった特定の名前や、「灯台」「時計職人」「図書館員」など、わずか11個の限られたキーワードが、全AIストーリーの「88%」に含まれていたというのだ。特に「灯台」に至っては、物語の半数以上に登場している。
AIは人間の書いた既存の文章データを学習して文章を生成する。だから「人間の書いた小説にエリアスや灯台がよく出てくるからだ」と思うかもしれない。しかし、研究者たちが調べた結果、人間の実際の文学作品において「エリアス」という名前は全く一般的ではなく、AIの物語の中では人間の文学の「900倍」も多く出現していることがわかった。
つまり、AIは人間の真似をしているのではなく、「AI独自の強迫観念(執着)」に囚われているのだ。
規制と「いいね」が生み出したディストピア
なぜAIはこれほどまでにエリアスと灯台を愛してしまったのか。研究者たちは、AI開発における「安全対策」と「ユーザーからのフィードバック」が、この不気味な偏りを生み出したと推測している。
まず、AIは学習段階でアダルトコンテンツや著作権のあるキャラクター(ミッキーマウスやハリーポッターなど)を無数に読み込んでいるが、企業が訴訟を避けるために「それらを出力してはいけない」と厳しくプログラミングされている。これにより、AIが物語を作るための「引き出し(語彙のプール)」が極端に狭まってしまう。
さらに追い打ちをかけるのが、AIが人間の好みを学習するシステムだ。
AIは「Aの回答とBの回答、どちらが好きですか?」と人間に評価を求め、その結果を次の出力に活かしていく。おそらく、開発の初期段階で少数の人間(テスター)が「時計職人のエリアス」や「灯台の物語」に高評価をつけてしまったのだろう。
「人間はこういうノスタルジックで無難な話が好きなんだな」と学習したAIたちは、こぞってエリアスと灯台の物語を大量生産するようになった。そして、そのAIが書いた物語がネット上に溢れかえり、それをまた次世代のAIが「学習データ」として読み込むという、地獄の無限ループが発生してしまったのだ。

モード崩壊:AIが自分の排泄物を食べて育つ日
この「AIが自分自身の生成したデータを学習して偏っていく現象」を、専門用語で「モード崩壊(Mode collapse)」と呼ぶ。文字通り、AIが自分の排泄物(スロップ)を食べて育ち、多様性を失って同じことしか言えなくなる状態だ。
ソフトウェアエンジニアのダニエル・メイ氏によれば、この現象は非常に最近のもので、Googleで「エリアス・ソーン」の検索数が爆発的に増えたのは2026年の初め頃からだという。現在、この架空のキャラクター「エリアス」はチャットボットの枠を飛び出し、Amazonなどで売られている粗悪なAI生成本(中には危険な代替がん治療のガイド本まである)の「著者名」として堂々とクレジットされるようになっている。
AIはあらゆる知識を持つ万能の神のように見えるかもしれない。しかし一歩引いて見れば、彼らは「人間が喜ぶだろう」と勘違いしたまま、たった一つの架空の人物と灯台の物語を、世界中で何百万回も書き続けている不気味で哀れな機械にすぎない。
もっとも、その“呪い”がかかっているのは今のところ英語のAIだけのようだ。試しに編集部が手元のAIに何度も「物語を書いて」と日本語で振ってみたが、名前も舞台もバラバラで、はっきりした偏りは見つからなかった。「エリアス現象」は、英語の対話データに溺れたAIが見る“英語の夢”なのかもしれない。とはいえ、いつか日本語のAIにも「灯台守のエリアス」に当たる誰かが棲みつく日が来るのか――気にかけておく価値はありそうだ。
参考:IFLScience、ほか
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2024.10.02 20:00心霊AIによる物語に頻繁に登場する謎の男「エリアス」と人工知能が引き起こした“モード崩壊”のページです。灯台、AI、ハルシネーションなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで