「入れ歯の場所まで正確に言い当てた」—— 臨死体験の”証拠”を科学的に検証する新手法

心停止から1週間以上が経過し、ようやく意識を取り戻した44歳の男性の一言に、蘇生処置にあたった看護師は言葉を失った。
男性は、自分が臨床的に意識を失っていたはずの間に、看護師が外した入れ歯をワゴンの引き出しに置いた一部始終を、正確に語ってみせたのだ。この”入れ歯事件”は、医学的にはあり得ないはずの記憶がなぜ生まれるのかという、長年の謎を象徴する一例に過ぎない。
そしてこのたび、こうした証言の「証拠としての強さ」を初めて数値で測ろうとする新手法が学術誌に発表され、注目を集めている。
看護師も知らなかった入れ歯の”定位置”を言い当てた男
事件が起きたのは2001年、オランダのある病院だった。心停止に陥った44歳の男性を蘇生する際、看護師T.G.氏は挿管の前に男性の入れ歯を外し、処置用ワゴンのスライド式の棚にそっと置いた。
その場所を誰かに伝えたことは一度もなかったという。ところが意識を取り戻した男性は、入れ歯を正確にどこへ置いたかまで言い当てた。T.G.氏本人が「まさにその通りだった」と驚くほどの一致だったとされている。
こうした事例は「検証可能な臨死体験(veridical near-death experience、vNDE)」と呼ばれる。意識を失っていたはずの間の出来事を患者が語り、それが後に第三者によって裏付けられるケースを指す。
医療スタッフ同士の会話の断片、手術室で起きた予期せぬ出来事、さらには患者が知らされていなかったはずの近親者の死を後になって正確に言い当てた例なども報告されている。
13人の専門家が生んだ「臨死体験”証拠”採点表」
これほど印象的な事例が積み重なる一方で、研究には弱点があった。ほとんどの調査は患者の回復後、インタビューやカルテ、目撃者の証言をもとに事後的に再構成されたものだったのだ。
そのため科学者たちは、証言が本当に説明のつかない現象なのか、記憶の取り違えや偶然の産物に過ぎないのか、長らく判断に苦しんできたという。
今回、学術誌『Frontiers in Psychology』に掲載された論文では、臨死体験研究の第一線に立つ専門家13人からなるパネルが協力し、vNDE事例の証拠としての強さを評価する初の標準化ツールを作り上げたと報告されている。
この「vNDEスケール」は、直感に頼らず各事例を8つの基準で採点する仕組みだ。患者が確かに意識を失っていたか、報告内容が第三者に裏付けられているか、通常の感覚で説明がつかないか、誤りと判明した詳細がなかったか、といった項目が含まれるという。
AIも交えた17症例のテストで見えてきたもの
研究チームは、この採点表を実際の事例に初めて適用する試みも行った。すでに公表されている17件のvNDE事例を対象に、専門家11人と3つのAIシステムが、それぞれ独立してスコアを付けたのだ。
採点者間で各事例の正確な点数までは一致しなかったものの、どの事例がより強い証拠を持ち、どの事例が比較的弱いかという大まかな傾向については、おおむね評価が一致していたという。
論文の著者らは、これまでに公表されたvNDE事例は120件以上にのぼる一方で、その質や記録の精度は事例ごとに大きくばらついてきたと指摘している。
vNDEスケールが超常現象の存在を証明するわけではない。それでも、玉石混交だった証言をふるいにかける道具が、初めて手に入ったことになる。
入れ歯の在り処を言い当てた男の記憶が、脳の巧妙な再構成なのか、それとも意識をめぐる未知の領域を垣間見せるものなのか——その答えに近づく第一歩は、意外にも「採点表」という地味な道具から始まったのかもしれない。
参考:Popular Mechanics、ほか
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