黒雲が空を覆い赤い雪が降った日 ― いま再びアメリカに忍び寄る悪夢「ダストボウル」

黒雲が空を覆い赤い雪が降った日 ― いま再びアメリカに忍び寄る悪夢「ダストボウル」の画像1※画像:1935年4月14日に発生した史上最悪のダストボウル「黒い日曜日」(テキサス州スピアマンで撮影)「Wikipedia」より

 アメリカの中西部で巨大な竜巻が発生することはよく知られているが、大規模な砂嵐が原因で国土が危機に陥っていたことはあまり知られていない。

 1931~1939年にかけて、アメリカ中部の大平原(グレートプレーンズ)広域で断続的に巨大な砂嵐が発生した。砂嵐の原因は人災だった。原因は、数十年にわたって農機具や鍬などで農地に過剰な肥料を混ぜたり、土に空気を混ぜ合わせるスキ込みがなされたことにある。自生した多年草が除去され、何百万エーカーもの土地で表土が天日に晒されたのだ。

 第一次世界大戦中は、なんの問題もなかった。戦争による需要拡大と政府の保証もあり、小麦には高値がつき、人々はますます開拓に精を出した。当時新技術として登場したトラクターや耕作機、刈り取り機が大規模農業を可能にし、農地の拡大と収穫量が飛躍的に増大した。

 しかし戦争が終わり、世界大恐慌が発生すると状況は一変。アメリカの農業は生産過剰となり、小麦相場は暴落、農民たちは土地を見捨てた。そして干ばつが見舞うと、耕作放棄地は乾燥し砂嵐が発生した。

 小麦畑だった中西部の大平原は、完全に砂漠と化していた。強風が吹くと視界は塞がれ、交通は遮断された。文字通り山のような黒雲が立ち込め、大地に覆いかぶさった。線路も道路も家屋までも砂に飲み込まれた。太陽の光は遮られ、この世の終わりを連想させた。肥沃な平原の土は太平洋に飛散し、はるか数百キロ沖合を航行する船舶にも影響を及ぼした。断続的に発生する砂嵐の影響で、肺炎を患う子どもたちも大量に発生。無数の小さな命が失われていった。人々は住み慣れた土地を離れ、カリフォルニアを目指す難民が大量発生した。

 この砂嵐は「ダストボウル」と呼ばれた。発生源はサウスダコタ州やカンザス州西部、オクラホマ州、テキサス州、ニューメキシコ州北東部、コロラド州南東部にかけてで、最終的に40万平方キロメートル強の大地が砂嵐に覆われたとされる。「ダストボウル」の黒雲は、はるばるシカゴの空まで黒くし、ニューヨークやワシントンD.C.などにも土が雪のように降り積もった。1934年のシカゴでは、市民1人あたり4ポンド(約1.8キロ)もの土埃が舞い降りたという。1934年の後半から翌35年の暮れにかけて、ニューイングランドでは土混じりの「赤い雪」が降ったと記録されている。

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