宇宙一寂しい星「2MASS J1119-1137」とは? 知られざる太陽系の外側の世界
太陽系の外側には、いったいどのような世界が広がっているのか? その解明につながる最新の研究成果に、海外メディアが注目している。
■生まれてまもなく放浪の旅路へ
今年4月、アメリカのカーネギー研究所とカナダのウェスタンオンタリオ大学は、うみへび座の近くを漂流しているある惑星について、共同で発表を行った。
『2MASS J1119-1137』――。まるで工業製品に付されるプロダクトナンバーのようだが、これが惑星に与えられた名前である(以下は省略して2MASSと表記)。2MASSが誕生してから今日まで、1000万年という歳月が経過している。
我々の感覚によれば途方もない時間だが、宇宙というものさしで考えると、2MASSはまだ“赤ん坊”に過ぎない(太陽系にある主要な惑星の成立は、45億年前ごろといわれている)。
2MASSのユニークな特徴は、幼い年齢だけではない。一般的な惑星は、他の惑星の質量に影響され、そこに生まれる重力に束縛されながら、規則的な回転運動を行っている。少なくとも太陽系では、地球を含む8個の惑星が、太陽を中心として回転運動を行い――すなわち「公転」しているわけである。しかし、2MASSは、他の惑星の重力にいっさいしばられることなく、宇宙を飛び回っているのだ。
このように銀河を独自に公転する惑星は、浮遊惑星(Rogue planet)と呼ばれ、誕生した恒星系から何らかの理由で弾き出されたものと考えられている。2MASSもやはり、生まれてまもなく故郷を離れ、放浪の旅を続けている。
■正体をつきとめるまで
2MASSの素性が解き明かされるまでには、数多くの手間と時間が費やされた。当初、2MASSを発見するために用いられたのは、NASAの赤外線探査衛星と、地上望遠鏡からのデータであったという。その時点では誤解が生じていたと、ウェスタンオンタリオ大学の学生であり、論文の筆頭著者を務めるケンドラ・ケロッグ氏は語る。
「強い赤外線の波長が確認できたので、それはすでに成熟し、冷え切った惑星ではないかと予想されました」(ケンドラ・ケロッグ氏)
加えて2MASSとの距離が正確に把握できなかったことから、宇宙のゴミが至近距離を通過しているのではないかという懸念も生じた。しかし、チリにあるジェミニ天文台に備えられた分析装置<FLAMINGOS-2>によって、誤解は解消されたという。同大学所属のスタニミール・メッチェフ氏が当時を振り返った。
「我々はほどなくして、2MASSが太陽の近くにある若い低質量の物体ではなく、より遠くに存在する赤色の星であるということを確認したのです」(スタニミール・メッチェフ氏)
続いて研究チームは、2MASSの正確な年齢を決定する必要に迫られた。彼らがジェミニ天文台で知り得た情報は、2MASSが約200億年より若いという事実だけだった。
「仮に2MASSがとても若い惑星であるならば、木星に酷似した浮遊惑星である可能性が考えられました」(スタニミール・メッチェフ氏)
パズルの最後のピースは、カーネギー研究所がチリに所有する、6.5メートルのマゼラン望遠鏡によってもたらされた。ここで示されたデータが、2MASSが太陽の近くに存在する最年少グループに属する惑星であることを裏付けた。
2MASSは、うみへび座TWアソシエーションとして知られる30個程度の恒星の集団と共に宇宙空間を移動していた。したがって、その年齢についても、周囲の恒星に近い1000万歳に留まると結論付けられたのだ。
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