人身事故が多発する駅の恐怖「呪われた●番線の怨霊」を駅員が暴露! 川奈まり子の実話怪談~残留者~

川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。

【三十一】『駅員・後編 ~残留者~』

(「駅員・前編 ~終着駅の女~」はこちら)。  
※後編からでもお読みいただける内容です。

 引き続き、東京圏の私鉄駅員、岡田隆さん(仮名)の話を綴らせていただく。

 岡田さんが働く路線は6つの管区に分けられており、各管区は1つの主要駅と隣り合う駅の計2駅か、もしくは主要駅のみで構成されている。そして、同じ管区に平均して4年勤続すると、転任せよとの辞令が下されるのだそうだ。

 勤続およそ11年になる岡田さんは、これまでに幾つかの管区を転任してきた。

「僕たちは、4年同じ管区に勤務すると“異動リーチ”が掛ったと言って、覚悟を決めるんです。同僚の顔ぶれも駅舎も、駅前の環境やひいては旅客の色合いまでもがいっぺんに変わるわけですから、新人の頃は、異動がありそうだと思うと緊張したものです」

 とは言え、この路線の管区の数はたった6つ。長期にわたって勤めていると、以前勤務していた管区に再び戻る可能性が高く、やがてはどの駅についてもそれなりに詳しくなって、異動による緊張は薄れていく。

「でも当時は入社して2年目で、今思うと、まだ新人の域を脱していませんでした。ただ、うちの路線の決まり事や習慣は一応身について、駅員の日常業務はそつなくこなせるようになっていました」

 ――今からおよそ9年前、岡田さんが2番目に大きな主要駅に勤めていた頃のことだ。

 彼は、その日は遅番で、最終電車を見送った後は、下り線担当の巡回当番を割り当てられていた。
駅員の業務は煩雑で多岐にわたるが、中でも終電後の巡回は、旅客の安全を守るために欠かせない、非常に重要な仕事だ。

 この任務にあたって、岡田さんたちが日頃、特に気をつけているのは「残留物」「残留者」だという。

 残留者とは、岡田さんたち駅員のスラングで、語源は残留物。終電後の駅に居残った者のことである。

 残留者の多くは泥酔者やホームレスで、まれに家出人や自殺念慮の持ち主のケースもあり、対応に苦労することが少なくないが、幸い、その夜、岡田さんは残留者を見つけることなく巡回を終えた。

 そしてバックヤードに引き揚げ、事務所に入ろうとして……外に飛び出してきた先輩と鉢合わせた。

 文字通りの鉢合わせで、正面衝突こそ避けられたものの、お互いにワッと叫んでよろめいた。これだけなら間の悪い偶然で、どうということはない。

 が、ぶつかりかけた先輩は、岡田さんの顔を見るなり、開口一番、「残留者がいたぞ!」と詰問調で叫んだのだった。

 おまけに、先輩に続いて、同僚やらアルバイトやら副駅長やら5、6人もどやどやと事務所から出てくるではないか。

 岡田さんは目を白黒させながら、とっさに今見てきたばかりの自分の巡回ルートの景色を頭の中で反芻した。

「……でも、こっちにはいませんでしたよ?」と、先輩に言い返す。

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