宮城県「9歳女児転落事件」当事者が怪奇情報を暴露!「落下する妹を8階で目撃したのに…」川奈まり子の怪談 『怪の棲む土地』(前編)

 ――これが、私が聞いた〝姉視点〟での話だ。

 ところが、当時の新聞でこの事件を伝える記事を読むと、妹は8階から落ちたことになっている。

 8階にいる彼女が、上から落ちてくる妹を目撃したのにもかかわらず、だ。

 これは奇妙だ。《マンションの防犯ビデオに転落する映像が残っていたことから、所轄の仙台東署は、8階付近から落ちたとみて詳しい経緯を調べている》と書かれた記事などを読むと、8階から落ちたという確実な証拠が出たのだろうと思えてくるではないか……。

 しかし、よくよく読むと、この記事では「8階付近から」と微妙に場所をぼかしている。また、これを読んだだけでは、何階のどの位置にあった防犯カメラに転落する様子が映っていたのかはわからないことにも気がつく。

 また、身長128センチの9歳女児が、高さ130センチ厚み50センチの壁に独力でよじのぼるのは、容易ではないことにも思い至らないわけにはいかない。

 もしも壁を乗り越えたのだしたら、指紋や靴跡を残すはずだ。

 でも、指紋も靴跡も発見されなかったとのことだ。8階のエレベーター付近だけではなく、マンションの各階の外廊下の壁のどこからも、何の痕跡も見つからなかったそうだ。

 マンションの住民も「誤って落ちる(壁の)高さではない。(厚みがあるため)大人でさえ下を見るのも容易ではない」と証言したそうで、つまり、妹が自力で乗り越えた可能性はごく低かった。

 いじめなどのトラブルがあったという事実もなく、遺書もないことから、自殺の線は薄いと警察は判断したようだ。

 壁に自力で這い上った跡がないため、転落事故でもなさそうだ。

 そこで警察は、すぐに、殺人事件の可能性も視野に入れて捜査しはじめた。

 犯人は、不審者か、姉である彼女だと目された。が、彼女には動機が無く、物証もまったく発見されなかったし……彼女はどちらかといえば小柄で痩せた11歳の少女で、体重差が数キロしかない妹を自分の肩より高く抱えあげて落とすことなど、出来そうになかった。

 捜査は難航し、たちまち行き詰った。

画像は「Getty Images」より引用

 なんとも奇妙な事件だった。

 姉の証言どおりなら、妹はエレベーター前から離れて、階段を駆けあがって上階に行き、落ちてくる必要があった。

 このマンションには各階のエレベーター前と内部、エントランスと駐車場に防犯カメラがあった。

 しかし、どのカメラにも妹が映ってはいなかったのだ。

 8階のエレベーター前で、エレベーターのボタンを押す彼女のそばに妹の姿はなく、その後、駆け戻ってきた彼女の姿を捉えるまで、いちども妹は映らない。

 神隠しにでも遭ったかのようだ。異空間に攫われて、空から落とされた、とでも言うのだろうか?

 真相はいまだに明らかになっていない。

後編につづく

文=川奈まり子

東京都生まれ。作家。女子美術短期大学卒業後、出版社勤務、フリーライターなどを経て31歳~35歳までAV出演。2011年長編官能小説『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビュー、2014年ホラー短編&実話怪談集『赤い地獄』(廣済堂)で怪談作家デビュー。以降、精力的に執筆活動を続け、小説、実話怪談の著書多数。近著に『迷家奇譚』(晶文社)、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)、『実話奇譚 呪情』(竹書房文庫)。日本推理作家協会会員。
ツイッター:@MarikoKawana

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