「性自認」って何のこと? 論理思考を省いた「トランス支援」は当事者をバカにしている!(東京大学・三浦俊彦教授)

画像は「getty images」より

 というわけで、S1~4のどの解釈も、身体的♂♀以外の性別基準を正当化できません。性別を変更するためには、元の外性器と生殖機能の痕跡を消す必要があります。身体から遊離した性自認は、虚偽(S1、S3)か、差別的ステレオタイプ(S2)か、論理的循環(S3、S4)か、さもなくば錯覚(S4)です。そんな性自認に定位するタイプのトランス支援は、反知性的なファシズム色が濃厚と言わざるを得ないでしょう。

 今回は、「性自認」について可能な定義をすべて列挙し、一つ一つ検証してゆくという、論理思考の基礎手順を紹介しました。証明できたことは、「性自認」から「真の性別」を合理的に導き出すことはできない、ということ。たとえば「トランス女性は女性です」は文字通りの真理ではありえず、比喩だということです。

 逆にいえば、真偽とは異なる基準(たとえば要救済措置の程度)で物事を評価する戦略へ切り替えれば、性自認にも意義が見いだせるかもしれません。真偽にこだわる「認知主義(cognitivism)」から撤退し、「非認知主義(noncognitivism)」[8]で布陣しなおすこと。その道にのみ、トランス支援の未来が期待できそうです。


[8] 真か偽いずれかの平叙文に見える文が、実は真でも偽でもない文(命令文、感嘆文、引用文など)の偽装した姿である、と考える立場。「トランス女性は女性です」は事実の記述ではなく言語行為遂行(たとえば特別扱いのお願い)ということになり、他者(PTSDの女性、女子スポーツ選手など)の行為遂行との調整により妥協を目指すことになる。

文=三浦俊彦

1959年生まれ。東京大学総合文化研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学文学部教授。専門は、美学・分析哲学。和洋女子大学名誉教授。著書に『バートランド・ラッセル 反核の論理学者:私は如何にして水爆を愛するのをやめたか』 (学芸みらい社、2019年)、『エンドレスエイトの驚愕: ハルヒ@人間原理を考える』(春秋社、2018年)、『改訂版 可能世界の哲学――「存在」と「自己」を考える』(二見文庫、2017年)など。
Twitter:@tmiura_bot

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