産道から出てくる赤ちゃんを接写… 超タブー「出産写真集」を紹介! 書肆ゲンシシャが所蔵する奇妙な本

「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

 地方都市のいち古書店ながら、店主の藤井慎二氏が独特の選書眼でコレクションした本などを紹介するTwitterアカウントは12万フォロワーを誇り、今や全国から老若男女のサブカル好きが同店を訪れている。

 本連載では、1時間1000円で店内の本を閲覧でき、気に入った本はその場で購入することもできる、「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇書・珍書の数々を紹介していきたい。

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ゲンシシャ内観

現実でほとんど見ることのない“出産写真”

――「切腹女子」を紹介してもらった第9回ですが、提供してもらったブロマイドがトカナのレギュレーションに引っかかってしまい、掲載することができませんでした。フェイクとはいえ、内臓が出ているのが、NGだったのでしょう。

藤井慎二(以下、藤井):乳房が露出したカットも掲載されていなかったので、「乳首もアウトだったのか」と思いました。今回紹介する「出産写真集」というのは、妊婦の表紙が多いため、必然的に裸の女性の画像となってしまいます。こうした画像は、Twitterでもたびたび弾かれてしまうコンテンツのため、過剰な自主規制だと思うのですが、SNS に載せることをためらってしまいます。トカナにはがんばって載せていただきたいですね。

――第7回の「見世物・フリークス」では“乳房が3つある女性”の表紙はOKだったので、書影であれば大丈夫なのでしょう。あと、切腹女子のブロマイドに関してはモデルが不明なので、実際はその辺りの配慮だと思います。

藤井:それでは、人間の誕生の瞬間にも関わらず、インターネット上では検閲の対象となってしまう出産を捉えた写真集を紹介していきましょう。まずは、写真家の大橋仁氏の『いま』(青幻舎)。本書は彼の2冊目の写真集で、10人の出産シーンを写真に収めています。女性の股から赤ちゃんが出てきているカットは、非常に神秘的な光景ですが、ネットでも地上波のテレビでも見ることは難しいものです。

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『いま』(青幻舎)

――生き物としては当たり前の話ですけどね。性器だからダメなのでしょうか?

藤井:だからこそ、この写真集は、ある種、タブーに切り込んだといえるでしょう。タブーという意味では、大橋氏は『そこにすわろうとおもう』(赤々舎)という、AV監督・カンパニー松尾氏が撮影に協力した写真集も出していますね。

――300人の男女が乱交している現場を捉えた写真集ですよね。発売当時、「そんな写真集出していいんだ……」とは思いました。

藤井:彼の写真集は比較的、高値で取り引きされているのですが、『そこにすわろうとおもう』は、探せば今も定価に近い値段で買えます。古本屋としてはなぜ、プレミアが付かないのかが謎ですね。他方で『いま』はそれなりにプレミアが付いています。

――こんな真正面から出産中の女性に、接近した写真を見たことがありませんでした。

藤井:女性でもあまりないと思いますよ。このような写真を見ると、出産というものについて再認識させられます。そういった意味でも、本書は記録としても非常に価値のある写真集といえるでしょう。

妊婦の写真がタブー視されていた時代

藤井:『いま』は被写体の女性が複数いましたが、岡田敦氏の『MOTHER』(柏艪舎)はひとりの妊婦の出産シーンなどを撮影した、ドキュメンタリー的な写真集です。これも思いっきり女性器が写っていて、股からだんだん赤ちゃんの頭が出てくる様子などが収められています。

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『MOTHER』(柏艪舎)

――赤ちゃんとはいえ、人の頭が股から出てくるんだから、すごい話ですよね。

藤井:岡田敦氏は当店としても興味深い写真家で、リストカットしている女性ばかりを集めた『I am』(赤々舎)などの作品で知られ、同作品で木村伊兵衛賞も受賞しています。ほかに、女性写真家が撮った出産写真集もあって、それが野寺夕子氏の『臨月』(かもがわ出版)です。タイトルの通り、臨月の女性を収めたモノクロの写真集で、撮影日・出産予定日・出産日がそれぞれ書かれています。撮影メモとして、生まれた子どもの性別や体重、何番目のお子さんなのかということも、記されていますね。

――本当に出産記録をまとめたみたいですね。

藤井:100人もの妊婦が被写体になっているのですが、これだけの数の妊婦さんを1冊に収めた写真集も珍しいです。本書は1995年に出た写真集ですが、あとがきには“妊婦の写真は、いわば「タブー」でした”という記述もあります。

――確かにマタニティーフォトというのは、ひと昔前は海外セレブが撮ってかなり話題になるような写真でしたよね。最近は一般の方もわりと撮りますけど。

藤井:ちなみに、野寺氏は『遺影、撮ります。―76人のふだん着の死と生』(圓津喜屋)という写真集も出しており、やはり生と死というテーマに興味・関心があるのでしょう。

――それぞれ、対極なようで密接なテーマですよね。

藤井:ほかに90年代に出された女性写真家の出産写真集には、宮崎雅子氏の『胎動 SIGN OF LIFE』(東京音楽社)もあります。彼女は妊婦や出産にまつわる写真集を数多く出していますが、本書には病院ではなく、自宅や助産院で助産師のもと、子どもを産んだ女性たちの写真が収められています。

巨大化した妊婦と町並みの合成写真

藤井:一気に時代が下って、最近の作品も紹介しましょう。2016年に出版された、馬場磨貴氏の『We are here』(赤々舎)という写真集は、裸の妊婦とさまざま風景を合成させているのが、面白いんですよ。

 

――妊婦がウルトラマンのように巨大化しているのは、なんだかコミカルですね。

藤井:馬場氏は2010年から妊娠中の女性のヌードを撮り始めたそうですが、2011年以降彼女自身3度の流産を経験しました。自身のそのような経験もあり、「ある日街を歩いていて突然閃いた。目の前のビルの合間から、巨大な妊婦が現れた。その大きな姿に解放感とたまらない安心感を覚えた。それまで感じていた行き場のない怒りと、腹の底から湧きあがる不安のようなものが、ふっと軽くなった。かくして彼女たちは誕生した」と書いています。

――結構、重いテーマだったんですね……。その解説を聞くと、原爆ドームの手前の水面に、巨大妊婦が写り込んだ写真はどことなく生と死を感じさせます。

藤井:ここまでは日本の写真集を紹介していきましたが、洋書にも触れましょう。ヴィジュアルアーティストのカルメン・ワイナンの『My Birth』には、複数の妊婦のカラーやモノクロの写真が載っています。

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『My Birth』

 

――出産するときの女性の表情も撮られていますが、相当苦しんでいますね。

藤井:本書が制作された経緯というのも興味深い。自分自身3人の子どもを出産した母親でもある作者がニューヨーク近代美術館での展覧会に向けて、2000枚以上の妊婦や、出産中の女性の写真を集め、一冊の写真集にまとめ上げたそうです。これまで紹介してきた書籍と同様に、本書でも女性器は思いっきり写っていますが、これを本にするだけではなく、展覧会で展示していたのも驚きです。

――確かに、すごい展覧会ですね……。

藤井:次に紹介したいのが、レナート・ニルソンの『生まれる―胎児成長の記録』(講談社)という作品です。本書は海外で出版されたものの翻訳版ですが、胎児が胎内で成長していく過程を写真で紹介しています。妊婦がお産の練習している様子の写真もあり、出産写真集の中ではもっとも知られた一冊でしょう。

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『生まれる―胎児成長の記録』(講談社)

――確かによく見る写真ですね。

藤井:レナート・ニルソンという人物は、この分野では非常に有名な写真家ですからね。ほかにも、出産当事者の母親たちの間では、アン・ゲデスという写真家も知られています。ほのぼのとした妊婦と、かわいらしい赤ちゃんの写真集やカレンダーをたくさん出しています。トカナに掲載するにはかわいらしすぎますかね(笑)。

リスト化されていない出産写真集

――しかし、妊婦・出産写真集というのは、思いのほか数がありますね。藤井さんはなぜこれらの写真集を集め始めたんですか?

藤井:単純に珍しいのと、出産が一種の「タブー」という扱いを受けているからです。そのためか、例えば第1回で紹介した「死後写真」はある程度、すでに写真集がリスト化されているのですが、出産写真集はまだしっかりとはまとめられていない領域なんです。

――確かに、書店ではもちろんのこと、インターネットでも確かにそういうリストは見たことがないですね。

藤井:そもそも、出産の写真集を見たいお客さんというのは、出産を控えた妊婦さんが多い。他方で、出産には関係のない、ほかの世代のお客さんにこれらの写真集を紹介しても、とても評判がいいんですね。読んでみて「へぇー」という反応を示す方が多い。繰り返しになりますが、出産の現場を間近で見たことのある人はそれほどいませんからね。

――赤ちゃんが出てくる女性器と正面から対峙することは、ほとんどの人が経験ないですからね。それはそうと、妊婦さんがゲンシシャに来られるのも意外ですが(笑)。

【ゲンシシャ連載】
第1回:店主が明かす超絶コレクションの秘密
第2回:死後写真集&隠された母
第3回:フォトショ以前のコラージュ写真と戦前の犯罪現場写真集
第4回:アートの題材となった死体写真
第5回:今では考えられない昔の医療
第6回:妊娠するラブドールに死体絵画
第7回:「見世物・フリークス」の入門書からポストカードまで
第8回:性器図鑑、変態性欲ノ心理、100年前のスパンキング写真集
第9回:超激レア本から学ぶ“切腹女子”たちの歴史とは?
第10回:食人を扱った奇書の数々

書肆ゲンシシャ 大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

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文=伊藤綾

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話うかがったり、イベントお邪魔したりするのが好き。サイゾーやSPA!、マイナビニュース、キャリコネニュース等で執筆中。友人や知らない人と毎月1日に映画を観る会(@tsuitachiii)を開催

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