コカインをキメて凶暴化した熊… 嘘みたいな本当の話が『コカイン・ベア』としてまさかの映画化!

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Ⓒ2022 UNIVERSAL STUDIOS

――コカインを食べてしまったことで、凶暴化したクマが巻き起こす騒動を描いた『コカイン・ベア』が、9月29日(金)から全国公開される。公開前からSNSで話題沸騰中の本作を気鋭のライター・ゼロ次郎が、映画の元になった事件の詳細など、薬物事情に詳しい彼ならではの視点で解説していく!

♪ある日 森の中 くまさんに 出会った

 童謡「森のくまさん」の一節が冷静に考えると危険な状況であることは、長年に渡りツッコミの対象となってきた。熊は陸における頂点捕食者の一角を占めており、日本でも最近、60頭以上の放牧牛を襲ったヒグマ「OSO18」が話題になったばかりだ。

 ただでさえ、危険な熊が、もしも麻薬のコカインをキメてハイになったとしたら……? そんな荒唐無稽な発想を映像化したのが、ダークコメディ映画『コカイン・ベア』である。

 舞台は1985年のアメリカ、ジョージア州。森林公園の上空で墜落した麻薬輸送機から大量のコカインがバラ撒かれ、それを口にしてしまった一頭の熊が、ガンギマリ状態で人を襲いまくるという内容だ。劇中での熊は人間よりもコカインに強い執着を見せたり、「もうダメだ! やられる!」と思った瞬間、突拍子もない行動に出たりと、“中毒者”としての側面が強調されている。

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 動物モノのパニックホラーといえば、これまでサメの独壇場であった。1975年の『ジョーズ』を皮切りにさまざまな派生作品が生まれ、近年では竜巻に乗って街中に降り注いだり、ゾンビや悪霊になったり、巨大ロボットと戦ったり、雪原や砂浜、果ては民家に現れたりと、もはやリアリティやホラー要素はそっちのけで「サメになにをやらせたら面白いか?」という悪ノリ合戦の様相を呈している。

 そう考えると、熊を主役に添え、しかも麻薬をキメさせるというアイデアは、今までにない斬新なものに思えるが、なんとこの作品は実話に基づいている。

 1985年9月11日、麻薬密売人のアンドリュー・カーター・ソーントン2世はセスナ機に乗り込み、コロンビア産のコカイン400キロを、カリブ海のバハマからテネシー州に運んでいた。しかし、途中でFBIに尾行されていると“確信”し、ジョージア州チャタフーチー国有林の上空から30キロのコカインが入ったダッフルバッグを3つ投げ捨てた。

 バッグを投棄した後、ソーントン自身もパラシュートを身につけセスナ機から脱出したが、何らかの理由でパラシュートが開かずに墜落死。一方、コカイン入りのバッグは無事に着地したと思われるものの、それを発見したのは人間ではなかった。

 ソーントンの墜落から約4カ月後、体重80キロほどのクロクマの不審な死体が発見された。死体を解剖したところ、この熊は脳出血、高熱、呼吸不全、腎不全、心不全を併発して倒れたことが明らかになり、胃の中からはソーントンが投棄したものと思われるコカインが15キロ以上も出てきたのだ。また、コカインが入ったバッグも発見されたが、中身はすべて荒らされており、これはこの熊を初めとするさまざまな動物(人間を含む)の仕業と断定された。

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 空からの思わぬ贈り物で、天国までブッ飛んでしまった哀れな熊は、それから剥製にされ、複数の所有者の元を転々としたのち、ケンタッキー州のショッピングモールに落ち着いた。麻薬王パブロ・エスコバルにあやかって「パブロ・エスコベア」という呼び名が与えられたが、どちらかというともうひとつの名前……「コカイン・ベア」として今も地域に愛されている。公式グッズも多数販売されており、中でもコカインを模したスノードームが人気だという。

 そして事件から40年近くの時を経て、コカイン・ベアは映画化されることとなった。パンフレットを読んでみたところ、本作の脚本家であるジミー・ウォーデン氏はネットサーフィン中に偶然このエピソードを知り、たちまち作品のアイデアが浮かんだという。

「熊が薬物の過剰摂取で死ぬだけの話にするつもりはなかった。気が滅入るからね。その代わりに、熊に大勢の人間を殺させることを考えたんだ。(中略)コカインを摂取した熊が森で人を殺す様々な方法を考え出すのは、今まで脚本を書いた中で最も楽しかった」(ウォーデン氏)

 アンタも何かキメてるんじゃねえのか……と言いたくなるが、映画の制作はトントン拍子に決まっていった。監督には、自らも俳優であり『ピッチ・パーフェクト2』や『チャーリーズ・エンジェル』でメガホンを取ったエリザベス・バンクスが就任。コカイン・ベアのCGは『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『アバター』、『猿の惑星』リブートシリーズで知られるWETAデジタルが担当するなど、強力な布陣が敷かれた。

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 ただ、野生の熊がコカインを摂取すると、どうなるのか? 当然ながら、研究データなどは存在しない。そのため、コカイン・ベアの挙動について制作陣はかなり想像力を働かせることになったという。しかし、それによってむしろこれまでにない、型破りで“ブッ飛んだ”作品に仕上がったとも言える。ガンギマリになった熊の暴れっぷりは、実際に劇場へ足を運んで確認してほしい。

 荒唐無稽な映画と思うことなかれ。上映が終わる頃にはあなたもきっと、劇中のコカイン・ベアのように、白目を剥いてヨダレを垂らしていることだろう。あと、コカインの末端価格に詳しい人は思わず「もったいない!」と叫ぶシーンが多いかもしれない。

 なお、一応付け加えておくが、この映画、そしてこの記事は決して薬物使用を推奨するものではない。日本においてコカインは「麻薬及び向精神薬取締法」によって規制されており、所持・施用・譲渡・譲受には7年以下の懲役が、製造・輸出入については1年以上10年以下の懲役が科せられる。

参考:「Mirror」ほか

『コカイン・ベア』
ある日、13歳の少女ディーディーは、友人と学校をサボって森へ向かうが、そこで大量のコカインを食べて凶暴化したクマに遭遇! 本来の「ブツ」の所持者である麻薬王一味、子どもたちとその母、警察、レンジャーら、それぞれの思惑が絡みあい、事態は思わぬ方向へと転がっていく……。実在の事件に着想を得て描き、全米でバズりまくったパニックアドベンチャー!
監督:エリザベス・バンクス/出演:ケリー・ラッセル、マーゴ・マーティンデイル ほか/配給:パルコ/公開日:9月29日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開

Web: https://cocainebear.jp/
Twitter: @cocainebear_jp

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文=ゼロ次郎

2015年からライターとして活動。 得意ジャンルは国内外のB級ニュースや珍事件。「TOCANA」 「実話ナックルズ」「日刊SPA!」を中心に執筆しているほか、 南阿佐ヶ谷のライブハウス「Talking Box」で、出版関係のトークイベントを毎月開催中。
X: @zerojirou

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