VRで臨死体験、AIで故人と会話、テクノロジーが変える「死」との向き合い方

死に対する恐怖は人類が抱える最も根源的な問題のひとつだ。しかし、最新のテクノロジーがその概念を変えようとしている。スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学(USC)では、仮想現実(VR)を活用し、死を間近に感じる患者の不安を軽減する研究が進められている。このプロジェクトは、AIを駆使した死生観の再構築にもつながる可能性を秘めているという。
VRで死を体験する「NUMADELICプロジェクト」
この革新的な試みは「NUMADELIC」と呼ばれ、約1億5000万円(90万ユーロ)の資金を得て進められている。目的は死に直面する人々の精神的な苦痛を和らげることだ。
VRを通じて「臨死体験」の感覚を再現し、死に対する認識を変えることで、不安や恐怖を軽減するという発想に基づいている。
具体的には、臨死体験をした人々が語る「光のトンネル」や「安らぎの感覚」を再現し、視覚や聴覚を通じて疑似体験させることで死の受容を促す。
このプロジェクトを率いるのは、アメリカ出身の物理学者デイビッド・グロワッキーだ。彼自身も2006年に登山中の事故で臨死体験をしたことがあり、その経験をもとにVRが人間の死生観を変える可能性を探求している。彼は以前、VRを用いて幻覚剤の影響をシミュレーションする研究も行っており、薬物を使わずに意識の変容を促せることを実証している。
AIが生者と死者をつなぐ?
一方、人工知能(AI)は、死者との対話を可能にする技術として急速に発展している。特に注目されるのが、亡くなった家族や友人と会話できるチャットボットだ。AIが生前の会話データや声の特徴を学習し、本人そっくりの受け答えをすることで喪失感を和らげる試みが進められている。
例えば、「Replika Pro」というアプリは、故人のデータをもとに生成されたチャットボットと会話できるサービスを提供している。開発者であるエウジェニア・クイダは、亡くなった友人のメッセージをAIに学習させ、彼との対話を再現するシステムを作り上げた。ユーザーは故人との会話を通じて、悲しみを乗り越える手助けを得られるという。
さらに、AmazonはAI技術を活用し、亡くなった家族の声を再現する技術を開発している。この技術を使えば、故人の音声をもとにして、Alexaが本人のように会話することが可能になる。
また、OpenAIの「December」というプロジェクトでは、亡くなった人の文章や発言データをAIが解析し、リアルな会話を生成する実験が行われた。結果として、まるで故人が生きているかのようなリアルな対話が可能になったという。

死は克服できるのか?テクノロジーと「不死」の境界線
VRやAIを活用した死後の対話技術は、単なる感情ケアを超え、「死とは何か?」という根本的な問いを投げかける。こうした技術の進歩は、「トランスヒューマニズム」(テクノロジーを用いて人間の限界を超えようとする思想)とも密接に関わっている。
未来学者レイモンド・カーツワイルは、「2030年までに人類は生物的な死を超越できる」と予測する。ナノテクノロジーや遺伝子治療、脳とコンピューターを接続する技術(BCI)が発展すれば、人間の意識そのものをデジタル化し、AIに移植することも可能になるかもしれない。
だが、NUMADELICの開発者であるグロワッキーは「500年生きることの方が、死ぬことより怖い」と警告する。彼の目的は「不死の実現」ではなく、死を受け入れやすくすることだ。技術が進歩しても、死そのものを避けるべきではないという視点は、哲学的な議論を巻き起こしている。
テクノロジーの進化によって、死は単なる「終わり」ではなくなりつつある。VRを通じて死後の世界を疑似体験し、AIが故人の声を再現する時代。果たして、それは「死を乗り越えること」なのか、「死を理解すること」なのか。
科学の進歩は確かに私たちの世界を変えつつある。しかし、その果てにあるものが安らぎなのか、新たな恐怖なのかは、まだ誰にもわからないのかもしれない。
参考:Espacio Misterio、ほか
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2024.10.02 20:00心霊VRで臨死体験、AIで故人と会話、テクノロジーが変える「死」との向き合い方のページです。臨死体験、VR、AIなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで