もしもアインシュタインが生まれていなかったら? 世界はどうなっていたのか…
一般相対性理論などをはじめとして人類の科学史上、アルベルト・アインシュタインほど傑出した天才はいないといわれているが、もし彼がいなかったとしたら今日の世界はどうなっていたのだろうか。歴史に“イフ”は禁物だが、冷静に検証してみると意外なことが予想されてくるという。
■アインシュタイン登場までの経緯
科学に興味がなくとも誰もがその名を知っているドイツ生まれの理論物理学者であるアルベルト・アインシュタイン(1879-1955)だが、もしもこの稀代の天才物理学者がいなかったとしたら、科学は今日までに現在の状態に進展していたのだろうか。米ウェブメディア「Big Think」の記事で興味深い考察が行われている。

アインシュタインの功績を理解するにはまずアインシュタイン以前の物理学を大まかに把握する必要がある。それはもちろんニュートン物理学だ。
万有引力の法則をはじめとするアイザック・ニュートンによる物理学は200年以上の間、地球と天体の両方の領域を説明する決定的な理論として見なされていた。
森羅万象のすべてを計算できるとも思われたニュートン物理学だったが、科学の進展と共に主に2つの課題が浮かび上がってくる。
1つめは水星の軌道である。太陽を周回する地球と金星の軌道はニュートン物理学に基づいて正確に測定することができたのだが、水星の軌道はどうやっても計算と一致させることができなかったのだ。このため水星の内側にまだ観測されていない惑星「バルカン」があるという仮説も出てきたのだが、もちろんその後もバルカンが発見されることはなかった。

2番目は光速にまつわる問題である。時速100㎞で走っている電車に乗って、野球のボールを時速100㎞で投げた場合、ボールは当然時速200㎞になるのだが、速度が光速に近づくとこのようなニュートンの運動方程式には当てはまらなくなるのだ。
たとえば光速の60%で移動する電車に乗って、そこでボールを同じく光速の60%で前方に投げた場合、ボールの速度は光速の120%ではなく、光速の約88%にしかならない。この現象をニュートン物理学で説明することはできなかった。
そしてこうした“難問”が浮上してきた時期に、アインシュタインが登場してそこに答えが示されたのある。
■アインシュタインの功績
アインシュタインの業績全体を1つの記事にまとめることは困難を極めるが、最も重要と思われる発見は次のようなものだ。
●方程式E=mc2
原子が崩壊すると、質量が失われ、エネルギーに変換されることを突き止めてそれを方程式にした。
●特殊相対性理論(Special Relativity)
特殊相対性理論によって光速に近い速度で移動するオブジェクトのふるまいと、時間の拡張と収縮が説明された。アインシュタインが1905年に発表した論文に端を発している理論である。

●光電効果(The photoelectric effect)
物質に光を照射した際に、電子が放出されたり電流が流れたりする現象である光電効果を、アインシュタインが光量子仮説によって初めて説明した。
●一般相対性理論(General relativity)
アインシュタインの最も大きな功績である一般相対性理論は、時空連続体が歪んだものであると考え、歪んだ時空が物質とエネルギーにどのように作用しているのかを説明した。これによって水星の軌道の“難問”が解決されたのだ。
これらに加えて、アインシュタインが大きな役割を果たした科学的成果としては、「ブラウン運動(Brownian motion)」や「アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス(Einstein-Podolsky-Rosen paradox)」、「アインシュタイン-ローゼン橋(Einstein-Rosen bridge)」などが挙げられる。
■ほとんどの“発見”は別の研究者によっても行われ得た?
こうした比類なきキャリアにもかかわらず、記事によればアインシュタインによってなされた多くの成果は、彼がいなくともほかの研究者によって早晩達成されたものであると信じられる多くの理由があるということだ。
たとえばイギリスの物理学者、ジョゼフ・ジョン・トムソン(1856-1940)は1880年代に電子を発見しており、移動する荷電粒子の電場と磁場がエネルギーを運ばなければならないと考え始めていた。

またイギリスの電気技師、オリヴァー・ヘヴィサイド(1850-1925)は演算子法を発見して荷電粒子が運ぶ“有効質量(effective mass)”の量を導き出すことができると主張した。
さらにフランスの数学者、アンリ・ポアンカレ(1854-1912)はアインシュタインに先駆けて1900年に事実上の「E=mc2」を独自の方法で導き出していた。
特殊相対性理論についてもオランダの物理学者、ヘンドリック・ローレンツ(1853-1928)が速度がどのように追加され、時間がどのように拡張するかを決定する変換方程式をすでに明らかにしており、その“下地”は出来上がっていたという。
光電効果についてもマックス・プランク(1858-1947)の光に関する研究によって準備は整っており、アインシュタインの存在の有無にかかわらずに発見されたはずであるということだ。また量子力学についてはアインシュタインがいなかった場合でも現在と同様の進展を遂げていることは間違いないといわれている。

一般相対性理論についてはやはりアインシュタインの独創性が大きく影響しているものの、彼の発見の早ければ数年のうちにほかの研究者によって発見され、提唱されたであろうことが見込まれるという。
そして科学の歴史を注意深く検証すると、重要な発見の前後の時期に、決して少なくない研究者が同時に同じような着想を得ていたことが後になってわかるケースも珍しくないのである。
もちろんアインシュタインが革命的な理論物理学者であることは間違いないが、当時から科学界には多様な人材が活躍しており、絶えまぬ努力と少しの運があれば科学者の多くには適切なタイミングで画期的な研究成果をあげる可能性がじゅうぶんにあったのだ。科学史上の“イフ”が禁物であることは言うまでもないが、天才を過大評価しない視点も求められているということだろうか。
参考:「Big Think」ほか
※当記事は2021年の記事を再編集して掲載しています。
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