「毒殺か、感染症か」モーツァルト急死の謎に現代医学が挑む! 230年以上経っても解けない天才作曲家の最期

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パブリック・ドメイン(Wikimedia Commons

35歳の天才が2週間で逝った――解剖も診断書もない”未解決事件”

 1791年12月、ウィーン。高熱にうなされ、四肢が腫れ上がり、ベッドから動けなくなったウォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、「何か恐ろしいことが起きている」と確信していたという。そして発症からわずか2週間後、35歳の天才作曲家はこの世を去った。

 問題は、解剖が行われなかったことだ。明確な死因の記録もなく、残されたのは症状の断片的な証言と、その後何世紀にもわたって続く論争だけだった。四肢の腫れ、急激な衰弱、食い違う目撃証言――まるで医療記録ではなく、推理小説を読んでいるような感覚に陥る。

 歴史家や科学者たちは繰り返しこの「ケース」に取り組んできた。しかし235年以上が経過した今も、「これが死因だ」と断言できる説は存在しない。今回は、現在最も有力とされる4つの仮説を軸に、モーツァルトの最期を読み解いていく。

神童の栄光と、その影に潜んでいた体の弱さ

 モーツァルトが「神童」だったことは今更説明するまでもないだろう。幼少期から欧州各地を巡業し、大人になってからはオペラ、交響曲、室内楽と、あらゆる分野で傑作を生み出し続けた。『魔笛』、『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』、『交響曲第40番』――いずれも200年以上たった今も色褪せない。

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少年時代のモーツァルト パブリック・ドメイン(Wikimedia Commons

 しかし、その生涯は順風満帆とは程遠かった。慢性的な経済的苦境、過密なスケジュール、そして繰り返す病気。父親からの書簡など複数の記録には、幼少期から感染症を繰り返していた様子が残されており、これが晩年の免疫力低下につながっていた可能性も指摘されている。

 それでも、亡くなる直前まで精力的に作曲を続けていたことは確かだ。死の床においても、未完のままとなった『レクイエム』に取り組んでいたとされる。その創作への執念がかえって体を蝕んだのか、あるいは単純に死期を知らなかっただけなのか――そこも謎のひとつだ。

毒殺か感染症か――現代医学が提示する4つの有力説

 モーツァルトの病状は急速に進行した。高熱、激しい痛み、そして四肢の著しい腫れ。現代の医療的な観点から、これらの症状をもとに複数の仮説が提唱されている。

①毒殺説
 おそらく最も有名な説がこれだ。作曲家アントニオ・サリエリが嫉妬のあまりモーツァルトを毒殺したという物語は、1979年のピーター・シェイファーによる戯曲『アマデウス』で広く知られ、1984年のアカデミー賞受賞作の映画版によってさらに世界中に広まった。

 実際、モーツァルト自身が晩年に「毒を盛られている」と周囲に漏らしていたという証言もある。18世紀の医療現場では毒性物質が薬として使われていたため、あながちゼロとも言い切れないのが厄介なところだ。ただし歴史家の大多数は、意図的な毒殺説には証拠が乏しいとして否定的な立場をとっている。

②溶連菌感染から腎不全へ
 より科学的な根拠を持つ説として注目されているのが、これだ。ウィーンの死亡記録を後から分析した研究者たちが、モーツァルトが亡くなった時期に「腫れを伴う死亡例」が増加していたことを発見した。

 これをもとに導き出されたのが、溶連菌感染が腎臓に合併症を引き起こしたという仮説だ。歴史的な記録にある腫れの症状や急激な病状悪化とも一致しており、現在最も有力視されている説のひとつだ。ただし、あくまでも状況証拠からの再構築であり、確定診断には程遠い。

③免疫関連疾患「ヘーノッホ=シェーンライン紫斑病」
 さらに専門的な視点からは、「ヘーノッホ=シェーンライン紫斑病」と呼ばれる免疫性の血管炎を発症したのではないかという説もある。日本ではあまり馴染みがない名称だが、感染症をきっかけに免疫系が暴走し、全身の血管に炎症を起こす疾患だ。腎臓障害を引き起こすこともある。

 モーツァルトの繰り返す感染歴と、最終的な症状の全身性という点がこの仮説と一致する。②の溶連菌説と組み合わせると、より整合的なストーリーが描ける可能性もある。

④当時の治療行為が死を早めた
 これは「医療ミス」とも言える話で、ある意味で最も後味が悪い仮説だ。18世紀の医療における「瀉血(しゃけつ)」、つまり血を抜く治療法は、発熱に対する標準的な処置として広く行われていた。しかし現代の知識から見れば、これは患者を著しく衰弱させる危険な行為だ。

 複数回にわたって瀉血が行われていたとすれば、感染症や臓器障害と相まって、回復の可能性をみずから潰してしまったことになる。助けようとした医師たちが、結果として死を早めていたかもしれないという皮肉な話だ。

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「未完の楽曲」のように、答えのないまま幕を閉じる

 PubMedなど医学データベースに収録された現代の研究では、感染症を起点とした腎不全説が比較的支持を集めている。嫉妬に狂ったライバルによる毒殺劇よりは、地味だが科学的に筋が通っているというわけだ。

 しかし、どの説も「有力」であることと「確定」であることの間には、埋めようのない溝がある。遺骨は保存されておらず、決定的な検査を行う手段もない。すべては不完全な記録と二次的な証言をもとにした推論に過ぎない。

 モーツァルトの死は、彼が残した『レクイエム』と同じだ――未完のまま、最後の音符を鳴らすことなく幕を下ろした。答えを求める研究者たちの旅は、今もまだ終わっていないのだ。

参考:Mental Floss、ほか

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