『死霊館』の原点 ― 呪いの人形「アナベル」が引き裂いた、ウォーレン家の“骨肉の争い”

映画『死霊館』シリーズの象徴的存在として、ホラーフランチャイズ史上最高の興行収入を叩き出した不気味な人形、アナベル。そのモデルとなった一体の古いぬいぐるみは、今もなおアメリカに実在する。そして、その呪いはスクリーンの中だけに留まらない。
超常現象研究家のウォーレン夫妻によって発見・封印されてから50年。アナベルは今、夫妻亡き後の遺族を骨肉の争いへと引きずり込み、関係者を次々と不幸に陥れているという。これは、世界で最も有名な呪いの人形を巡る、もう一つの恐ろしい“実話”である。
「助けて」―少女の霊を装った“何か”。アナベル人形誕生の戦慄の実話
すべては1970年、コネチカット州のアパートから始まった。看護学生のデビー(※資料により名前は異なる)は、誕生日プレゼントとして一体の「ラガディ・アン」人形を受け取った。彼女と同居人のララは、遊び心から人形に「アナベル」と名付け、まるで人間のように扱った。

しかし、その日から奇妙な現象が起こり始める。誰も触れていないのに人形の腕がテーブルの上に上がっていたり、部屋から部屋へ勝手に移動したり。さらには、羊皮紙に拙い文字で「助けて」というメッセージが残されることもあった。
恐怖を感じた2人が霊媒師に相談すると、「この土地で亡くなったアナベル・ヒギンズという7歳の少女の霊が、人形に宿っている」と告げられる。哀れに思った2人は、少女の霊を受け入れることにした。しかし、ウォーレン夫妻の孫であるクリス・マッキネル氏によれば、これが「最悪の間違い」だった。「彼女たちは、この“何か”に人格と物語、そして憑依するための足場を与えてしまったのです」
これを機に現象はエスカレート。ララの恋人であるカルは、アナベルに首を絞められる悪夢にうなされ、ついには現実世界で胸に生々しい爪痕をつけられるという物理的な攻撃まで受けた。事態は、もはや少女の霊のいたずらでは済まされなくなっていた。
悪魔の正体を見破ったウォーレン夫妻
追い詰められた彼女たちが助けを求めたのが、高名な超常現象研究家であったエド&ロレイン・ウォーレン夫妻だった。家に足を踏み入れた夫妻は、すぐに事の真相を見抜く。
「アナベルなんて存在しない!君たちは騙されているんだ!」
エド・ウォーレンが断言したように、人形に宿っていたのは無邪気な少女の霊ではなかった。それは、人間を騙して肉体に憑依しようとする、悪魔的な存在。少女の霊を装うことで、彼女たちの同情心を利用し、家への侵入許可を得たのだ。
夫妻は神父を呼び、家全体と住人たちの悪魔祓いを敢行。そして、持ち主の懇願により、元凶であるアナベル人形を自宅へ持ち帰ることにした。しかし、その帰り道、車のブレーキが突然効かなくなり、エンジンが何度も停止するという不可解なトラブルに見舞われた。アナベルの呪いが、夫妻に牙を剥いた瞬間だった。
家に到着したアナベル人形は、ウォーレン夫妻の自宅地下にある「オカルト博物館」に運び込まれ、「警告:絶対に開けるな」と書かれた特製のガラスケースに、聖水と共に厳重に封印された。

呪いは家族へ…アナベルを巡る孫と義父の泥沼の争い
ウォーレン夫妻の死後、アナベルの呪いは新たな局面を迎える。今、その矛先は、残された家族に向けられているのだ。
現在、アナベル人形とオカルト博物館の遺産を管理しているのは、夫妻の娘婿であるトニー・スペラ氏。彼は「NESPR(ニューイングランド精神研究協会)」を率い、アナベル人形を全米各地のオカルトイベントに持ち出す「悪魔は実在するツアー」を開催している。入場料は約50ドル。これが大きな収入源となっている。
この行為に猛反発しているのが、ウォーレン夫妻の孫であるクリス・マッキネル氏だ。「祖父は、呪われた遺物を一般市民から守るために博物館を作ったんだ。それをカーニバルの見世物にするなんて、生きていたら激怒しただろう。すべては金儲けのためだ」と、義父であるスペラ氏を痛烈に批判する。
一方、スペラ氏は「マッキネルこそ、ウォーレンの名を利用して金儲けを企んでいる」と反論。かつては一つの家族だった二人の関係は完全に断絶し、互いを詐欺師と罵り合う泥沼の争いを繰り広げている。
ツアー中に起きたスタッフの“謎の死”と商業化される“呪い”
この骨肉の争いの最中、悲劇は起きた。2025年7月、アナベルのツアーに同行していたNESPRの主任調査官ダン・リベラ氏が、遠征先のホテルで心臓発作により急死したのだ。ネット上では「アナベルの呪いだ」と瞬く間に噂が広まったが、仲間は「彼は元々健康問題を抱えていた。クリック目当ての話が家族を傷つけている」と悲痛な声を上げている。

アナベルの呪いが本物か偽物か、その議論は尽きない。物語には矛盾点も多く、そもそも発端となった看護学生たちの実在さえ確認されていない。しかし、一つだけ確かなことがある。
アナベルという「物語」は、今や莫大な金銭的価値を持つ“商品”となったのだ。最近では、ウォーレン夫妻の家と呪われた遺物の数々が、あるコメディアンとYouTuberにリースされ、一泊1999ドル(約30万円)からの宿泊体験施設として生まれ変わる計画まで進んでいる。
呪われた人形に本当に悪魔が宿っているのだろうか。しかし、その人形を巡る人々の欲望、嫉妬、そして対立が、ウォーレン家そのものを引き裂き、新たな「社会学的な呪い」を生み出していることだけは紛れもない事実だ。
すべてのドラマの中心で、アナベルは何も語らない。ただ、そのガラスケースの中から、永遠に微笑み続けているのだ。

参考:Esquire、ほか
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
関連記事
人気連載
“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...
2024.10.02 20:00心霊『死霊館』の原点 ― 呪いの人形「アナベル」が引き裂いた、ウォーレン家の“骨肉の争い”のページです。呪い、死霊館、アナベル人形などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで