楽園が地獄に変わる時… ガラパゴスで起きた「リアル・バトルロワイヤル」未解決怪死事件の全貌

ガラパゴス諸島といえば、ダーウィンの進化論やゾウガメ、イグアナが闊歩する「手つかずの自然の聖地」として、現代ではエコツアーの最高峰とも言える場所だ。
だが、観光地化される遥か以前、1930年代のガラパゴスは、過酷な火山岩に覆われた「陸の孤島」であり、同時に、社会に馴染めない奇人変人たちが引き寄せられる磁場のような場所でもあった。
フロレアナ島。この島でかつて起きた出来事は、理想郷を夢見た人間たちが、嫉妬と狂気の果てに破滅していく、まるで三流のノワール小説のような――しかし紛れもない実話である「ガラパゴス事件」だ。
今回は、歴史の闇に埋もれたこのドロドロの人間ドラマを紐解いてみよう。

歯を全部抜いてきた男と「アダムとイブ」
事の始まりは1929年。ベルリンの医師フリードリヒ・リッター博士と、そのパートナーであるドーレ・シュトラウハが島に降り立ったことだった。
リッター博士はニーチェに傾倒し、退廃した文明社会を嫌悪してこの無人島へ逃避してきた筋金入りの変わり者だ。彼の徹底ぶりは凄まじい。「無人島で歯のトラブルが起きたら困る」という理由だけで、出発前に自分の歯をすべて抜き、ステンレス製の入れ歯を作って持参したのだ。
しかも、伝説によればこのステンレス入れ歯、彼とドーレで「共有」していたという話まである。もはや狂気を感じるレベルだ。
彼らは火山性の乾燥した大地を耕し、裸で生活し、そこから哲学的な手紙を文明社会へ送り続けた。皮肉なことに、その手紙が国際的なメディアに取り上げられ、彼らは「ガラパゴスのアダムとイブ」として一躍有名人になってしまう。
そこへ1932年、ヴィットマー一家(ハインツ、マルグレート、息子のハリー)がやってくる。彼らはリッターたちとは違い、戦後のドイツの混乱から逃れてきた現実的な一家だった。
思想強めのリッター博士と、実務的なヴィットマー家。両者は互いに距離を取り、干渉しないことで奇妙な平和を保っていた。マルグレートが島で初めての子供、ロルフを出産するなど、まだこの頃は「苦労話」で済むレベルだったのだ。
鞭と拳銃を持った「女帝」の降臨
島の微妙なバランスが崩壊したのは、1932年末のことだ。「バロネス(男爵夫人)」を自称するエロイーズ・ウェーボーン・ド・ワーグナー=ボスケという女性が上陸してから、物語は一気にサスペンスへと変貌する。
彼女は虚言癖の疑いがある派手な人物で、ルドルフ・ローレンツとロバート・フィリプソンという二人のドイツ人愛人を引き連れてやってきた。いわば「逆ハーレム」状態である。
彼女の夢は壮大だった。水もろくに出ないこの島に、高級ホテル「ハシエンダ・パラディソ(楽園の館)」を建設すると宣言したのだ。
ピストルと鞭で武装し、女王のように振る舞うバロネス。彼女は島民の郵便物を勝手に検閲し、愛人の一人であるローレンツを公然と虐待し、もう一人のフィリプソンを寵愛した。
島には憎悪とパラノイアが充満し、一触即発の空気が漂い始めた。

突然の消失と「間違った島」のミイラ
運命の日は1934年3月27日に訪れた。
ヴィットマー家の証言によれば、バロネスとフィリプソンが突然、「友人のヨットでタヒチに行く」と言い残して島を去ったという。
しかし、奇妙な点が多すぎる。まず、島民の誰もその「友人のヨット」を見ていない。さらに、虚栄心の強いバロネスが、自分の大切な持ち物をすべて島に残したまま消えたのだ。
二人は殺されたのか? 犯人はバロネスの横暴に耐えかねたヴィットマー家か、あるいは捨てられた愛人のローレンツか? 様々な憶測が飛び交ったが、二人が再び姿を現すことはなかった。
悲劇は続く。バロネスが消えた後、島を出ようと焦った元愛人のローレンツは、ノルウェー人の漁師を雇ってサン・クリストバル島へ向かった。しかし彼らもまた、海で消息を絶つ。
数ヶ月後、彼らの遺体はマルグレート島という、本来の目的地とは全く逆方向の島で発見された。灼熱の太陽に焼かれ、ミイラ化した状態で。なぜ彼らがそこにいたのか、真相は闇の中だ。
そして「アダム」ことリッター博士もまた、その後すぐに死亡する。公式には「傷んだ鶏肉を食べたことによる食中毒」とされているが、彼からの知的DVに疲弊していたパートナーのドーレが、苦しむ彼を見殺しにしたのではないかという噂も囁かれた。

地獄とは「他人」のことである
結局、この奇妙なコロニーで生き残ったのは、最も現実的だったヴィットマー一家だけだった。彼らはフロレアナ島の秘密を墓場まで持っていったのかもしれない。
今日においても、ガラパゴス事件は20世紀最大のミステリーの一つとして語り継がれている。
文明を捨てて楽園を求めたはずが、そこにあったのは人間の欲望と殺意だけだった。サルトルは「地獄とは他人のことだ」と言ったが、絶海の孤島という逃げ場のない密室において、その言葉はあまりにも重く響く。
美しい自然の裏側に、かつてこんな血なまぐさい人間ドラマがあったことを、観光客のどれほどが知っているだろうか。
参考:Mysterium Incognita、ほか
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2024.10.02 20:00心霊楽園が地獄に変わる時… ガラパゴスで起きた「リアル・バトルロワイヤル」未解決怪死事件の全貌のページです。未解決事件、ガラパゴスなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで