現代の『マトリックス』から脱却するため、人生のすべてを“ランダム”に決めた男の末路

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 プログラマーが、自分の生きている世界が目に見えない檻(アルゴリズム)に支配されていることに気づき、そこから抜け出すためにあらゆる手段を尽くす——。

 どこかで聞いたことがある設定だと思ったなら、それは映画『マトリックス』だろう。しかし、今回紹介するのはキアヌ・リーブスが演じたネオの話ではない。サンフランシスコに住む実在のITエンジニア、マックス(仮名)の物語だ。彼を自由へと導いたのは、モーフィアスのようなスキンヘッドのメンターでも、スローモーションの銃撃戦でもなく、皮肉にも「別のアルゴリズム」だった。

アプリに支配された日常からの脱却

「自分の生き方には、何かすごくプログラムされているような感覚がありました」とマックスは『The Atlantic』誌の取材で語っている。

 多くの現代人がそうであるように、彼もある日、友人たちとバーへ向かう道すがら「実存的な危機」に陥った。「新しくてイケてるバーに行くなんて、まさにコンピュータが私に期待通りの行動をしているだけだ」と気づいたのだ。

 スマホを開けば、SNSやレビューアプリが自分の好みに完璧に最適化されたお店を提案してくる。そこには失敗はないが、新しく挑戦的な出会いも絶対にない。アルゴリズムが敷いたレールの上を歩かされているだけの自分に、自由意志などあるのだろうか?

 生粋のプログラマーであるマックスは、プログラマーらしい解決策を思いついた。彼は、行き先を「完全にランダム」に決定し、運転手だけが目的地を知っている状態で配車アプリ(Uber)を呼ぶ独自のアプリを開発したのである。

「彼の実験は、いわば『不確実性への曝露療法』のようなものでした」とThe Atlanticは綴っている。マックスは自分の意思では絶対に行かないようなレザーバー(特定の趣味を持つ人々の集まるバー)やプラネタリウム、街の反対側にある古びたボウリング場などへ放り込まれるようになった。

 やがて彼は、この「アルゴリズムがもたらすカオス」の虜になる。食事のメニュー、入れるタトゥーのデザイン、聴く音楽など、日常のあらゆる決断をランダム化していったのだ。

「ランダムに選ぶことで、私は自由を見つけたんです」と彼は語った。

Googleを辞め、世界中をランダムに放浪する日々

 マックスの徹底ぶりは常軌を逸していた。2015年には、誰もが羨むGoogleでの安定したポジションを辞め、自作のアルゴリズムに「世界のどこに住むべきか」を決定させたのだ。ホーチミンからベルリンまで、彼は約1ヶ月ごとに世界中の都市をランダムに転々とする生活を2年以上も続けた。

 だが、ここで一つの疑問が浮かぶ。決断の苦痛から解放されたとはいえ、すべてを乱数発生器(ランダマイザー)に委ねることが、果たして本当の「自由」なのだろうか?

 ケベック大学の心理学教授は、この行動を「不確実性を受け入れているというより、単に責任を回避しているだけだ」と辛辣に分析している。

 それでもマックス自身は気にも留めていなかった。ある「どうしようもない場所」にたどり着くまでは。

 将来の妻となる女性とアメリカを横断するロードトリップ中、アルゴリズムが彼らを導いたのは、ノースカロライナ州の沼地のど真ん中にある「ウィリアムストン」という何もない田舎町だった。

「自分たちはいったいここで何をしているんだ?」と彼は自問した。

 その瞬間、マックスは再びマトリックス的な啓示を受けることになった。「ランダムに生きると、たくさんのノイズ(新しい経験)は生まれますが、そのノイズは特定の方向へは向かいません。私は新しいものを見ているだけで、何も築き上げていないことに気づいたんです」と彼は回顧している。

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あなたは「おすすめ」という名の牢獄にいないか?

 現在、マックスは妻とともに落ち着いた生活を送り、家族を持つ計画も立てている。だが、レストランで注文するメニューをルーレットで決めるなど、今でも生活のスパイスとして「小さなカオス」を楽しんでいるという。

「決まった計画、固定されたアイデンティティ、決まりきったルーティンを持っていると、いつの間にか『自分の好みという名の牢獄』に閉じ込められてしまうんです」と彼は語る。

 マックスの完全なランダム信仰は少しやりすぎだったかもしれない。しかし彼の物語は、アルゴリズムに飼い慣らされた私たちが「型を破りたい」という衝動にどう向き合うべきかを示す、非常に興味深いケーススタディである。

 現代はAIモデルがかつてないほど強力になり、「あなたが過去に好きだったもの」を延々と提供し続けることで、私たちをプラットフォームに釘付けにしようとする時代だ。音楽、映画、旅行の計画、さらには人生の悩み相談まで、AIのレコメンド(おすすめ)に頼る人々が増えている。

 しかし、その便利さの代償として、私たちはAIが「安全な賭け」だと判断したものしか体験できず、居心地のいいコンフォートゾーン(安全地帯)の奥深くに閉じ込められてしまう危険性がある。

 たまにはスマホの「おすすめ」を無視して、全く知らない街の、聞いたこともない店に飛び込んでみてはどうだろうか。そこには、アルゴリズムが絶対に教えてくれない、本当の「自由」があるかもしれない。

参考:Futurism、ほか

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