中世写本の「95%以上」がこの世から消えていた!? シミュレーションが暴いた、私たちが読む古典は”氷山の一角”にすぎないという衝撃

図書館の書架に並ぶ中世の古典。それらは、はるか昔から連綿と受け継がれてきた「知の遺産」として、私たちの前に姿を現している。
だが、いま手にしているその一冊は、実は膨大な「失われた知」の海に浮かぶ、ほんのわずかな氷山の一角にすぎないのかもしれない——。
そんな衝撃的な可能性を示す研究成果が発表された。コンピュータ・シミュレーションによる推計では、中世に存在したテキストの最大60%、写本にいたっては95%以上が、すでにこの世から永遠に消え去った可能性があるというのだ。
テキストの60%、写本の95%が「消えた」——シミュレーションが弾き出した衝撃の数字
この研究は、ジャン=バティスト・カン氏らの研究チームによるもので、2026年7月7日付の学術誌『PNAS Nexus』に発表された。論文のタイトルは「テキストの伝承について——複雑系としての書字文化」とされている。
チームが用いたのは、「エージェント・ベース・シミュレーション」と呼ばれる手法だ。無数の個体(エージェント)が互いに影響し合いながら変化する様子をコンピュータ上で再現するもので、生態系や感染症の広がりを解析する「複雑系科学」のアプローチを、中世写本の世界に持ち込んだ形である。
分析の結果、この時期のあらゆるテキストのうち最大でおよそ60%が失われた可能性が示された。さらに、かつて存在したと考えられる写本にいたっては、その95%以上がすでに現存していないという推計が導き出されたという。
現代に残された中世文献は、かつての知の総量からすれば、わずか数パーセントの「生き残り」でしかない可能性があるということになる。
『ローランの歌』が物語る、たどり着けない「原典」の謎
研究チームが手がかりとしたのは、12世紀以降の騎士道物語だ。これらの物語には、別のテキストへの言及や引用が数多く含まれている。
そこでチームは、「現存する物語が参照している、いま失われたテキスト」の量を逆算することで、かつて存在した知の総量を推定していった。いわば、影の輪郭から実体の大きさを測るような試みである。
その象徴的な例が、フランス最古の叙事詩として知られる『ローランの歌』だ。西暦778年の出来事を描いた11世紀の作品とされるが、現存するのは中世に作られた複数の写本のみ。おおもとの「原典」がどのようなものだったのかは、もはや知りようがないという。
ここで浮かび上がるのが、写本の系統を樹木のように図示した「系統樹(ステンマ)」の不完全さだ。原典から枝分かれしたはずの系譜は、途中の枝が失われることで、本来つながっているはずの版が孤立した断片として浮かんでしまう。私たちが目にしている「系譜」そのものが、すでに歯抜けの状態だというのである。

なぜ知は消えるのか——「最初の一手」と黒死病がもたらした断絶
では、なぜこれほど大量のテキストが失われたのか。研究が指摘する重要なポイントは、意外にも「最初の段階」にあった。
分析によれば、テキストが生き残れるかどうかは、初期にどれだけの部数が書き写されたかに大きく左右されるという。手書きで複製された数が少ないテキストほど、時の流れの中で消滅しやすい。知の存続が「最初の一手」で決まってしまうというのだ。
加えて、歴史上の破壊的な出来事も知識の喪失に拍車をかけたと考えられている。その代表格が、14世紀にヨーロッパを襲った黒死病(ペスト)だ。人口の激減とともに、写本を守り伝える書き手や修道院も打撃を受け、多くの知識が受け継がれる前に断ち切られたとみられている。
こうしてチームは、古代・中世の知がいかに脆く、いかに簡単に永遠に失われうるかへの懸念を投げかけている。記録媒体の劣化や技術の断絶といった「知の消滅」のリスクは、デジタル化が進んだ現代でも決して過去だけの問題ではない。
私たちがいま「歴史」や「古典」として学んでいるものは、偶然生き残った断片の寄せ集めなのかもしれない。失われた95%の中に、世界の見え方を根底から覆す知が眠っていた可能性——それを想像するとき、書架に並ぶ古典は、まったく違った表情で私たちを見つめ返してくるのかもしれない。
参考:The Debrief、ほか
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2024.10.02 20:00心霊中世写本の「95%以上」がこの世から消えていた!? シミュレーションが暴いた、私たちが読む古典は”氷山の一角”にすぎないという衝撃のページです。中世、写本、古典などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

