シュレーディンガーの猫を目視できる時代到来? 量子論が思考実験を超え始める!

 箱の中で“生きてもいるし死んでもいる”という生死が共存してる状態、いわゆる量子的重ね合わせの状態にある猫が「シュレーディンガーの猫」だ。箱を開けて“観察”することで猫の生死が決定されることになり、理屈からいっても我々は量子的重ね合わせの状態にある猫を直接見ることはできない。こっそり箱の中をのぞき見しても、見た瞬間にその猫は量子的重ね合わせの状態ではなくなるからだ。

 このように量子論は人間が直接目で確認できない種類の理論や思考実験ばかりなのだが、昨今のテクノロジーの進歩で徐々にその世界を垣間見ることができるようになっている。先日は“絶対零度”に近づく物理学の限界が突破されたのだ。


■絶対零度の量子バックアクション限界を突破

 マイナス273.15度――。“絶対零度”である。この温度は理論上の計算から導き出された数字であり、人工的にこの温度を実現することは不可能である。道理からいっても、モノを絶対零度に冷やす手段が開発できないからこその絶対零度であり、また量子論においても「不確定性原理」により量子の“ゆらぎ”がゼロの状態はないため、いわばすべての動きが止まった完全なる沈黙の世界である絶対零度を実現することができないのだ。この限界は量子バックアクション限界(quantum backaction limit)と呼ばれている。

 もちろん、レーザーを使って限りなく絶対零度に近い温度までの冷却にはすでに成功しているのだが、そこにはやはり量子バックアクション限界の壁が大きく立ちはだかっていた。しかし先頃、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の研究チームが科学誌「Nature」に発表した研究では、量子力学を探る実験において、絶対零度の量子バックアクション限界を突破した快挙が報じられている。

 冷却したモノは、直径20マイクロメートル、薄さ100ナノメーターというきわめて小さいアルミニウム製の“ドラム”だ。ドラムとは、ロックバンドの楽器のドラムと同義で、なぜそんな呼び名なのかといえば、まさにスティックで叩かれたドラムヘッドのように細かく振動させられるからに他ならない。日本人にとっては、和太鼓の膜をイメージしたほうが理解しやすいだろうか。

シュレーディンガーの猫を目視できる時代到来? 量子論が思考実験を超え始める!の画像1IBTimes」の記事より

 この極小“ドラム”は電磁的空洞構造を持った超伝導回路に配置されてから、冷却のためにレーザー光線をあてられた。そしてこのレーザーは、研究チームが独自に開発した量子ゆらぎが圧搾された状態のスクイーズド光(squeezed light)なのである。

 このスクイーズド光の光子が空洞構造の中に満たされることで共振現象が起こり、その結果“ドラム”が振動するという。普通であればドラムに光子が衝突することで熱が発生するのだが、共振してエネルギーが音に変換されることで量子エネルギーの値を5分の1にまで下げるということだ。その結果、量子バックアクション限界を越える低温まで冷却が可能になったのだ。

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