「妖精の輪」は逃亡の軌跡だった…?自分が汚した土から後戻りできず、ただ前進し続けるキノコの生存戦略

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 草原にぽっかりと浮かび上がる緑の円——通称「妖精の輪」は、ヨーロッパで何世紀も前から目撃されてきた奇妙な自然現象だ。かつては妖精たちが輪になって踊った跡だと信じられていたが、その正体がキノコの一種であることは早くから判明していた。

 しかし、なぜあれほど整った円を描いて成長するのかは、実は科学的にきちんと説明されてこなかった。この度、スウェーデンの研究チームがDNA解析と地道な移植実験によって、その謎に迫る有力な手がかりを掴んだという。

墓地に眠っていた「輪の主」の正体

 調査を主導したのは、ストックホルム大学の菌類学者ハンナ・ヨハネッソン氏率いる研究チームだ。舞台となったのはスウェーデン・ウプサラの墓地で、そこに広がっていたのは「マラスミウス・オレアデス」という学名を持つキノコだった。

 別名「妖精の輪キノコ」、あるいは「スコッチボネット」とも呼ばれるこの種は、100種類以上あるとされる「妖精の輪」形成キノコの中でも代表格だ。研究チームは土壌サンプルからDNAを採集し、配列を決定した上でキノコ本体のゲノムと照合するという地道な作業を行った。

 その結果、円の縁部、特に外側のリムに近い部分でDNA濃度が高くなっている一方、円の中心部ではDNA濃度が周囲の背景値と変わらないレベルまで落ち込んでいることが判明した。これは、目に見えない地中の菌糸体そのものが、キノコの傘と同じようにリング状の構造を作っていることを示す発見だった。

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輪の一部を掘り起こし、14ヶ月待った移植実験

 DNA分析だけでは決定的な証拠にならないと考えた研究チームは、さらに大胆な実験に踏み切った。輪の一部を実際に土ごと掘り出し、向きを回転させたり、まったく別の場所へ移植したりして、その後の成長の様子を観察したのだ。

 観察期間は実に14ヶ月に及んだ。見えてきたのは、菌糸体が円の外側に向かってのみ前進を続け、一度通過した内側の土壌には二度と戻らないという明確な傾向だった。

「逃げる菌類」という生存戦略が生んだ完璧な円

 研究チームはこの挙動から、「土壌が一時的に不利な条件になると、菌類はそこから逃げるように前進し続ける」という”逃避仮説”にたどり着いた。

 菌糸体は成長の過程で、自らが定着した土壌の栄養分を消費し尽くしたり、自身が分泌する物質でかえって生育に適さない環境を作り出してしまったりする可能性が指摘されている。後戻りができない以上、前へ進むしかない。

 その結果、中心から外側へと均等に拡大を続けた軌跡が、あの幾何学的なまでに整った円を描き出す——というのが研究チームの結論だ。優雅な自然の造形の裏側に、菌類の切実なサバイバル戦略が隠れていたというわけである。

 この研究成果は学術誌「Royal Society Open Science」に掲載された。ただし対象はマラスミウス・オレアデス1種にとどまり、妖精の輪を作る100種以上すべてに同じ仕組みが当てはまるかは今後の検証が待たれる。

 長らくロマンチックな民間伝承として語り継がれてきた「妖精の輪」の正体が、実は自分の作った”荒れ地”から逃げ続けるキノコの足跡だったとすれば、少し切ない話にも聞こえる。だが見方を変えれば、妖精たちは律儀にダンスの跡を掃除して回っているのではなく、むしろキノコの方が黙々と新天地を開拓し続けているだけなのかもしれない。

参考:Science Alert、ほか

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