私たちは別の宇宙の量子運動に翻弄されていた! 思考実験で証明…崩壊光線銃

 ざっくり言ってしまえば、1000回連続でコインが表を出すという確率的にありえないことが起こったのは、それが1つの宇宙の中では確率的にありえないことでも、無数の宇宙であらゆる可能性が試行された結果、この宇宙とこのわれわれが最終的に残ったと考えれば良い(1000回連続で表が出るなんて超超超低確率のことが本当に起こってしまうなんて、宇宙がいっぱいあることにしないとやってられない)ということである。

 と言われても「だからなに?」という感じだが、実はこれ、哲学の深い話にも繋がるのだ。17世紀ドイツの哲学者ライプニッツは、「現実世界は可能なすべての世界の中で、最善のものである」という評判のすこぶる悪い「最善説」という考えを打ち出した。最善の世界が1000回連続で表が出た宇宙だとすれば、ハロウェイ氏の思考実験と同型だと分かるだろう。

画像は「getty images」より

 コロナあり、巨大台風あり、凶悪犯罪ありのこんな世界が最善なんて馬鹿げたことのようにも聞こえる。だから評判がすこぶる悪いのだが、あらゆる可能な世界の中で、なんでこの世界だけが“現実”なのかというふかーい問いを含んでいるのだ。ライプニッツはここで神を持ち出し、その神が選ばれた世界が唯一の現実世界だとする。定義からして善である神が選んだのだから、現実世界は最善の世界でなくてはならないのである。

 ところで、この現実世界には現実の「私」もいる。

 ここで、ハロウェイ氏の思考実験に戻ると、あらゆる可能な宇宙に身体組成から記憶までまったく同じ私のコピーがいるとして、1000回連続で表が出た宇宙の私だけがなぜ現実の私なのか、という問いをたてられるだろう。

 ここで、ハロウェイ氏は崩壊光線銃で他の私は全て抹殺されたとし、ライプニッツは神がこの私を選んだとするわけである。個人的にはハロウェイ氏の解決策にはちょっと違和感があるが、どうだろうか?

 というように、ハロウェイ氏の思考実験は想像することすら難しい広大な多元宇宙だけでなく、身近な私についての話として読むこともできる。興味のある読者は自分なりの読み方を探してみるのもいいだろう。

 

参考:「TNW」、ほか

TOCANA編集部

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