200年前の「ヴァンパイア」は親族にとどめを刺された? 骨に刻まれた謎の文字「JB55」とは?

 今から30年以上前、砂利採石場で発見されたとある棺には、まるで「髑髏マーク」のように複雑な形に組み替えられた遺骨が眠っていた。考古学者たちは「ヴァンパイア信仰」との関連を強く主張したが、確証が得られないまま研究は手詰まりとなっていた。

 ところが2019年、最新科学の粋を集めた研究と分析が再度行われ、なんと遺骨の正体を突き止めることに成功。ドラキュラと思われたこの人物は、19世紀初頭に一度、遺族によって墓を暴かれた貧しい農夫だったという。

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※ こちらの記事は2019年9月18日の記事を再掲しています。

 1990年、米コネチカット州グリズウォルドの砂利採石場で大昔の木棺が出土した。棺には遺骨が横たわっていたが、実に異様な光景だったという。頭蓋骨の下に2本の大腿骨が交差されていたのだ、まるで海賊船の旗に描かれる「髑髏マーク」のように――。

遺族が遺体を掘り起こす「ヴァンパイア信仰」とは

 色めき立った考古学者たちは、この遺骨の並び替えから「おそらく『ヴァンパイア信仰』と関連がある」と発表した。しかしその後、これという手がかりもなく、研究は手詰まりとなってしまった。

 そして今、約30年の時を経て、デラウェア州ドーバーにある米軍監察医システム(AFMES: Armed Forces Medical Examiner System)のDNA研究所が最新科学の粋を集めた研究と分析の結果、木棺に眠るドラキュラとされた人物は「ジョン・バーバーという貧しい農夫」であることを突き止めた。今年7月23日、メリーランド州シルバースプリングの国立健康医学博物館で公式発表されたという。

200年前の「ヴァンパイア」は親族にとどめを刺された? 骨に刻まれた謎の文字「JB55」とは?の画像1
「Science Alert」の記事より

 今から200年前、19世紀初頭のある日、アメリカ北東部ニューイングランド地方の墓地では1人の男の墓が暴かれていた。彼の遺族が心臓を丸焼きにしようと掘り起こしたのだが、埋葬してから4~5年経過していたため、すでに分解が進み臓器は跡形もなかった。

 そこで遺族は、とりあえず遺骸の胸骨を打ち砕き、骨を並べ替え、再び棺の中に戻すことにした。棺の蓋には真鍮の鋲で“JB55”と、男のイニシャルと年齢が打ちこまれていた――そう、ジョン・バーバーだ。

 だが、なぜ墓を掘り返して、わざわざ心臓を焼こうとしたり、骨を奇妙な形に組み直したりしたのだろうか。実は当時、人が結核で亡くなると、死んでから墓を抜け出し、家族に感染させるという「ヴァンパイア信仰」があったからだ。今で言えば、ゾンビだろうか。

200年前の「ヴァンパイア」は親族にとどめを刺された? 骨に刻まれた謎の文字「JB55」とは?の画像2
画像は「Science Alert」より引用

 そのため、死因が結核の者は「掘り起こして、とどめを刺す」という身の毛もよだつ「治療的発掘」が慣習だったそうだ。掘り起こした遺体の心臓に血液が残っているかチェックし、もし残っていれば、亡くなった人は吸血鬼である確率が高いと判断されるということだ。

恐怖に支配された暗黒時代

 取り出した心臓を焼く作業は家族の責任だったというから、あまりに惨たらしい。ニューイングランドの、特にコネチカット州やロードアイランド州の僻地では、こうした例が80件も報告されているそうだ。

 当時は、結核の蔓延にヴァンパイア信仰が結びつき、このような凄惨な儀式がまかり通っていたのかもしれない。無知とは恐ろしい。

 正体がわかったジョン老人だが、おそらく働きづめの農民だったと推測される。首を骨折した痕があるものの、治療はされないまま。長年の重労働から晩年は膝の関節炎を患い、脚を引きずっていたようだ。

 下中流階級に属し、結核が命取りになったようだが、肋骨に残る痛々しい傷跡は彼の最期がどれほど壮絶だったかを物語っている。

200年前の「ヴァンパイア」は親族にとどめを刺された? 骨に刻まれた謎の文字「JB55」とは?の画像3
画像は「Smithsonian.com」より引用

 1700年代~1800年代初頭のアメリカでは、結核は吸血鬼と同様に説明のつかない恐ろしい現象だったのだろう。「恐怖」という最も原始的な感情に支配された暗黒の時代に、暮らした人々の一生とはいかなるものだったか――ジョン爺さんの永遠の眠りが、二度と妨げられませんように。

参考:「Science Alert」、「Smithsonian.com」、ほか

文=佐藤Kay

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