ナチスのUFO開発史ー円盤型航空機と南米ネオナチ思想の中心人物(4)

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画像は「Getty Images」より

第1回:UFO史を紐解くー「ケネス・アーノルド事件」(1) 
第2回:UFO史を紐解くー「ケネス・アーノルド事件」(2)
第3回:UFO史を紐解くーケネス・アーノルド事件以前の目撃例(1)
第4回:UFO史を紐解くーケネス・アーノルド事件以前の目撃例(2)
第5回:日本UFO研究事始めー「宇宙機」とその時代(1)
第6回:日本UFO研究事始めー「宇宙機」とその時代(2)
第7回:戦前に設計された円盤形航空機「ディスコプター」とは?
第8回:UFO=宇宙人の乗り物説は日本発祥だった!?
第9回:UFO研究の先駆者ドナルド・キーホー概説
第10回:1897年「オーロラ事件」は世界初のUFO墜落事件なのか?
第11回:謎に包まれた「アズテック事件」を解説(1)
第12回:謎に包まれた「アズテック事件」を解説(2)
第13回:昭和25年の「空とぶ円盤」事情
第14回:ナチスのUFO開発史ールーマニアの発明家アンリ・コアンダ(1)
第15回:ナチスのUFO開発史ーフリーメーソンの技術者ベッルッツォ(2)
第16回:ナチスのUFO開発史ー円盤型航空機「V-7」は完成していた!?(3)

 ジョゼッペ・ベッルッツォとルドルフ・シュリーファー以外にも、第二次世界大戦中UFO製作に携わっていたと称する人物がその後何人か登場した。

 1953年の時点では、ナチス政権化のドイツで第二次世界大戦中UFOを制作していたとして具体的に名前の出た人物は5人であった。

 イタリア人のジョゼッペ・ベッルッツォ、ルドルフ・シュリーファー、リヒャルト・ミーテ、ゲオルク・クライン、そしてクラウス・ハーベルモールである。

 この5人全員が協力関係にあったと初めて述べた著書が、1956年にルドルフ・ルーザという人物が書いた『第二次世界大戦中のドイツの秘密兵器』である。

 もっともこの書物では、ベッルッツォの名がベルンゾとなっている。そしてナチスのUFO開発に関するその後の書物の中にも、この「ベルンゾ」という名を使用しているものがいくつも見られる。

 さらに1968年になると、イタリアのレナト・ヴェスコ(1924~1999)が『迎撃せよ、しかし撃つな』と著書を著し、自らUFO開発に関わっていたと述べるとともに、オーストリア生まれの発明家ヴィクトル・シャウベルガー(1885~1958)もまた、既に名前の出た5人と一緒にUFO研究に関与していたと主張した。ヴェスコはまた、ナチスのUFO開発とフー・ファイターとを結びつけ、何種類かのナチス製UFOを特定した。

 しかし、ベッルッツォはじめ、ナチス・ドイツでUFO開発に従事していたと主張する技術者や科学者の証言をよく読んでみると、奇妙なことに気づく。

「ナチスのUFO (1)」でも述べたが、ナチス・ドイツではアンリ・コアンダやアルトゥール・ザックといった人物が、現実に円盤型航空機を制作しようとしていたことが確認されている。ところがベッルッツォからヴェスコに至る関係者の発言や記述の中には、こうした実在した計画に関する言及が一切見られないのだ。

 同じような円盤形の航空機を研究していたとすれば、同時期の似たような機種については当然関心を持ってしかるべきなのに、シュリーファーもミーテも、コアンダやザックの試みを完全に無視している。

 さらに、UFO開発に関与していたと名乗り出て、各国の新聞や雑誌のインタビューに登場した4人、つまりベッルッツォ、シュリーファー、ミーテ、クライン、さらにクラインが言及した人物ハーベルモールのうち、実在が確認されているのはベッルッツォだけである。

 戦後アメリカに移住し、宇宙開発で中心的な役割を果たしたV-1やV-2ロケットの開発者、ヘルマン・オーベルト(1894~1989)やヴェルナー・フォン・ブラウン(1912~1977)といった人物の伝記などを見ても、彼らの名は登場しない。ミーテなどはV-1、V-2ロケットの開発にも関わっていたといわれるにも関わらず、これらの人物の名はフォン・ブラウンやオーベルトに関係する人物の中に一切見つからないのだ。

 ともあれ、1970年代になると、カナダ在住の歴史修正主義者エルンスト・クリストフ・フリードリヒ・ツンデル(1939~)が、ナチスの南極秘密基地の存在、1946年から翌年にかけて南極でハイジャンプ作戦を行っていたアメリカ軍がUFOに攻撃されたという創作を付け加えた段階で、ナチスUFO神話の第一章がほぼ完成する。

 こうしたナチスUFOの物語を本格的に日本に紹介したのは、国際ジャーナリストの落合信彦である。

 落合は、南米のチリにあった「エスタンジア」と呼ばれるドイツ人コミュニティ訪問から始め、さまざまな人物にナチスのUFO研究についてインタビューした結果を、1980年にまず週刊誌『週刊プレイボーイ』で発表、その直後に『20世紀最後の真実』としてまとめた。この著書は、レナト・ヴェスコの著書をベースに、さまざまな人物からナチスのUFO研究について聴取していく内容となっている。

 この著書は発表直後には、その衝撃的な内容もあってかなり際物扱いされたようだが、その後作中でいう「エスタンジア」に相当するドイツ人コミュニティが実在したことが明らかになっている。落合がインタビューした人物も、偽名を用いている者もあるが、ほぼ全員が実在するようだ。特にサンチャゴでのウィルヘルム・フリードリッヒなる人物との会見中に突然現れ、謎の男と評されたミゲル・セラノ(1917~2009)は、じつは南米におけるネオナチ思想の中心人物とも目される大物であった。

なお、今回まで4回にわたり述べたナチスのUFOは、第二次世界大戦時に実在した技術を発展させて開発された円盤型航空機というべきものである。しかし1990年頃になると、ナチス・ドイツが他の天体の生命体と接触して、地球にはない超科学を用いたUFOを開発していたという、新たなナチスUFO神話が生まれ、広まっていく。

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文=羽仁礼

一般社団法人潜在科学研究所主任研究員、ASIOS創設会員、 TOCANA上席研究員、ノンフィクション作家、占星術研究家、 中東研究家、元外交官。著書に『図解 UFO (F‐Files No.14)』(新紀元社、桜井 慎太郎名義)、『世界のオカルト遺産 調べてきました』(彩図社、松岡信宏名義)ほか多数。
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