奇形や奇病を記録した危ない医学・医療写真の数々! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

 SNS投稿などでそのコレクションが話題となり、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れるようになった同店。今では少子高齢化にあえぐ地方都市とは思えぬほど多くの人が集まる、別府の新たな観光名所になっているという。

 本連載では、そんな「書肆ゲンシシャ」店主の藤井慎二氏に、同店の所蔵する珍奇で奇妙な本の数々を紹介してもらう。

自慰死、頭蓋貫通、自己去勢と四肢切断愛好、サイキ・アウト

――本題に入る前に、前回の「犯罪現場」の本をすべて紹介しきれなかったので、同じテーマで続けたいと思います。

藤井:前回は基本的に読み物を除外していましたが、『Exquisite Corpse: Surrealism and the Black Dahlia Murder』という「ブラック・ダリア事件」に関する本を紹介しましょう

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『Exquisite Corpse: Surrealism and the Black Dahlia Murder』

――1947年にアメリカで起きた未解決のバラバラ殺人事件ですね。腰が完全に真っ二つにされていたという。

藤井:同書は、ロサンゼルスの刑事が「私の父親がブラック・ダリア事件の犯人だ」と主張する本をもとにしています。この事件の犯人と目される人物は芸術に造詣があって、シュルレアリストの写真家マン・レイなどとも仲が良かったそうです。そのような、さまざまなシュルレアリスムの作品と、実際の現場写真を比較しながら事件について解説しているため、実際にバラバラにされた遺体の写真が多数載っています。

――乳房を抉り取られた胴体の写真もありますね。かなり際どい内容です。

藤井:犯人がいかにシュルレアリスムの作品を参考に、バラバラの遺体を配置しているかがわかります。あと、マン・レイが撮影した犯人とされる人物の写真も載っていますが、死後に息子により告発されたものの、実際に犯人なのかはわかりません。

――日本にも実際の犯罪現場写真が、たくさん載っている本はあるんですか?

藤井:『実録 恐怖の残酷殺人現場―この死体写真を直視できるか!』(二見書房)は1000円くらいで手に入ります。これは1995年に発売された文庫本です。海外の「犯罪実話雑誌」を翻訳したもので「全裸に剥いた未亡人の頭蓋骨をハンマーで叩き割った話」などが写真つきで載っていますね。「釣り上げた獲物は幼い赤ちゃんの惨殺死体だった」といった見出しも強烈な一冊です。

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『実録 恐怖の残酷殺人現場―この死体写真を直視できるか!』(二見書房)

――残酷な殺人事件の概要がいろいろと紹介されているんですね。世の中にはいろんな本がありますね……。

藤井:あとは1951年に出版された『性の誘惑と犯罪』(あまとりあ社)は、「特異な性的犯罪」として、サディズム、マゾヒズム、同性愛、獣姦、手淫などについて事件を紹介しています。冒頭には死体写真が収録されていて、幼い頃から義母に女子として躾をされ300人の男と関係を持った車次久一の写真もあります。彼は女形として舞台に立ち、浮気を咎められて殺害した愛人の男のミイラ化した首を壺に入れて持ち歩いていました。一方、2000年に出版された『デス・パフォーマンス』(第三書館)は「自慰死、頭蓋貫通、自己去勢と四肢切断愛好、サイキ・アウト」と書かれた帯が過激で、写真も豊富に収録されているのでオススメです。同書には、自動車を使った自慰行為中に事故で死んだ男の写真が載っています。

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『性の誘惑と犯罪』(あまとりあ社)

――昔はこんな本が書店で売られていたんですね(笑)。犯罪現場から少し離れますが、「テクノブレイク」はインターネットでもよく話題に上がりますね。

藤井:そうですね。この本は最近まで定価で買えたんですが、かなり人気で、今うちにあるのは5冊目になります。冒頭で「本文で紹介されたボディーモディフィケーション(身体改造)および性的行為を実践してはならない」と、ちゃんと警告しているところも、面白いポイントですね。

Amazonで60万円超えの「危ない医学写真集」

――前置きが長くなってしまいましたが、今回は「医学・医療写真」というテーマになっています。

藤井:過去に「危ない医療本」を取り上げましたが、今回は写真集を中心に紹介しましょう。まずはアメリカのフィラデルフィアにあるムター博物館のカタログ『Mütter Museum Historic Medical Photographs』です。同施設は頭蓋骨や解剖された遺体などが多数所蔵されている博物館で、カタログも2冊出ています。あと、僕は持っていませんが、カレンダーもあるそうですよ。

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『Mütter Museum Historic Medical Photographs』

――そんなの飾りたくない……。

藤井:肝心のカタログには「犬のフィギュアを飲み込んでしまった子どものレントゲン写真」「尻尾があるフィリピン人」「皮膚描記症」、そして寄生虫の写真などが紹介されています。後半には無脳症や単眼症など、奇形児の写真が大量に載っています。

――昔は奇形児も今よりずっと多かったのでしょうね……。

藤井:病気の治療として、水銀を使っていた時代もあるくらいですからね。ムター博物館のカタログのうち、もう1冊『Mütter Museum of the College of Physicians of Philadelphia』には標本のカラー写真も収録されています。さらに「背骨が弯曲してしまう病気の女性」や「人間の顔を薄切りにした標本」などの写真が載っています。

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『Mütter Museum of the College of Physicians of Philadelphia』

――ムター博物館は初耳でしたが、相当過激な博物館ですね。

藤井:次に紹介するのは『Masterpieces of Medical Photography: Selections from the Burns Archive』です。これは以前お話したバーンズ・アーカイブの中から、ジョエル=ピーター・ウィトキンという写真家がキュレーションした医学写真の写真集です。

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『Masterpieces of Medical Photography: Selections from the Burns Archive』

――この連載ではお馴染みのメンツですね。同書はアメリカの医師が収集した19世紀から20世紀初頭にかけて撮影された写真のコレクションということになるんですかね?

藤井:その通りです。「遺体を解剖中の医者たち」「精神病患者」「象皮病の女性」「片足のサイズだけ大きい女の子」の写真などがキャプション付きで載っています。あと、ぜひとも紹介したいのが、オランダの医学博物館のカラー写真カタログ『Forces of Form』という希少本ですね。

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『Forces of Form』

――Amazonで60万円超えみたいなんですけど……。

藤井:実際にその価格で売れるかはわかりませんが、表紙のデザインからして格好いいですし、この迫力ですから、その価値はあります。心臓や脳、結合双生児、いろんな部位のホルマリン漬けなどのカラー写真はとにかく美しい……。特に「纏足【編注:かつて中国で女性に行われていた、幼児期より足に布を巻かせ、足が大きくならないようにするという風習】」のカラー写真は、うちのお客さんに響くものがあるみたいです。

――「お隣の国の風習」程度の認識でしたが、改めて写真で見るとまるで四足歩行の動物みたいな足になっていてエグいですね。

「猿だか人だかの脳を輪切りにしたやつ」

藤井:『Dissection : Photographs of a Rite of Passage in American Medicine 1880–1930』もオススメですね。昔は医学生が解剖学を勉強する際に、遺体と一緒に記念撮影する習慣があったらしく、同書はそうした写真だけを集めた写真集です。ブラックユーモアを感じる写真が多く、例えば遺体を囲んで医学生たちがトランプをしているページもあります。

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『Dissection : Photographs of a Rite of Passage in American Medicine 1880–1930』

――勉強目的ではなく、普通に遊んでいるだけじゃないですか(笑)。

藤井:同書によると、遺体と記念写真を撮る習慣は、もともと医学生の緊張感を解きほぐすためにあったらしいですよ。まぁ、真偽のほどはわかりませんがね。

――果たして、そんな罰当たりなことをして緊張感はなくなるものなのでしょうか……。

藤井:あと、広島で開業医をしていた越智一格(おち・いっかく)氏が集めた、明治期の医学写真コレクション『Dr. Ikkaku Ochi Collection』には、西郷隆盛もなったとされる陰嚢肥大や、小人症などの写真が載っています。ちなみに、同書はこの連載でも一度紹介した成山画廊のオーナー、成山明光氏のコレクションからの写真集です。ほかにも手に入れるのに苦労した本だと、『外表奇形図譜 外表奇形のモニタリングに関する研究』(外表奇形のモニタリングに関する研究班編)があります。かなりレアな非売品で、口唇裂とか陰核肥大といった病気の写真が載っています。

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『Dr. Ikkaku Ochi Collection』

 

――大学の刊行物とか公文書とかでよく見るタイプの表紙ですね。藤井さんはこのような学会本まで収集しているんですか?

藤井:そうですね。その流れでいうと、こちらの『臨床医学写真図譜』(東京医学写真協会)もかなりのレア本です。1921年発行で、大正時代のさまざまな奇病の写真が載っています。梅毒の写真をはじめ、巨大陰茎や、ひとつ目小僧のような「単眼症の奇形児」などの写真が紹介されています。同書に収録されている「手と足が4本ずつある奇形児」の写真は、うちにも写真帖に貼り付けられた生写真がありますよ。

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『臨床医学写真図譜』(東京医学写真協会)

――なんで、そんな写真が手元に……。

藤井:最後に定番どころですが、『人体の不思議展』のカタログを紹介しましょう。最近の若い人だと知らない人も多いでしょうね。

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『人体の不思議展』

――昔、テレビCMをやっていましたね。「本物の人体標本」を展示するという。

藤井:ただ、その標本にされたご遺体が、中国の拷問死した囚人の可能性があるという疑惑や、人権上の問題などの理由で終了したのですが、このカタログでは真っ二つに切られた人体の写真や、「プラスティネーション」という保存技術で加工された本物の人間の脳の写真などが載っていて、なかなか見応えありますよ。

――つい最近までこれが実際に見られたと思うと、恐ろしいですよね。

藤井:あと、これは余談ですけど、うちにもプラスティネーションで作られた猿だか人だかの脳を輪切りにしたやつがありますね。

――また、コレクションなのか、呪物なのか、わからないような物が……。

【ゲンシシャ連載】
第1回:店主が明かす超絶コレクションの秘密
第2回:死後写真集&隠された母
第3回:フォトショ以前のコラージュ写真と戦前の犯罪現場写真集
第4回:アートの題材となった死体写真
第5回:今では考えられない昔の医療
第6回:妊娠するラブドールに死体絵画
第7回:「見世物・フリークス」の入門書からポストカードまで
第8回:性器図鑑、変態性欲ノ心理、100年前のスパンキング写真集
第9回:超激レア本から学ぶ“切腹女子”たちの歴史とは?
第10回:食人を扱った奇書の数々
第11回:産道から出てくる赤ちゃんを接写… 超タブー「出産写真集」
第12回:UFO、UMA、心霊写真を網羅したオカルト事典の数々!
第13回:“純粋な興味”を喚起する殺人現場写真集!

書肆ゲンシシャ 大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

文=伊藤綾

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話うかがったり、イベントお邪魔したりするのが好き。サイゾーやSPA!、マイナビニュース、キャリコネニュース等で執筆中。友人や知らない人と毎月1日に映画を観る会(@tsuitachiii)を開催

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