“純粋な興味”を喚起する殺人現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

 SNS投稿などでそのコレクションが話題となり、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れるようになった同店。今では少子高齢化にあえぐ地方都市とは思えぬほど多くの人が集まる、別府の新たな観光名所になっているという。

 本連載では、そんな「書肆ゲンシシャ」店主の藤井慎二氏に、同店の所蔵する珍奇で奇妙な本の数々を紹介してもらう。

「犯罪現場の写真を見たい」お客さんが殺到!?

――この連載も始まって1年が経ちましたが、これまでなにか反響はありましたか?

藤井:いや、「トカナを見て来た」というお客さんは、今のところ1桁くらいですかね(笑)。

――はっきり言いますね(笑)。ゲンシシャの来店者とトカナの読者層は被っていると思うんですけど。

藤井:記事を読んでお店に来られている方も、たくさんいると思いますよ。わざわざ言わないだけなのでしょう。

――そう思いたいですね……。そういえば最近、講談社の「現代ビジネス」でも新しく連載を始められたようですね。著者プロフィールにキメ顔の藤井さんの写真が使われています。

藤井:その写真は別府在住の写真家、原久路さんに撮ってもらいました。担当編集者も別府出身のようで、以前お客さんとして来られたようです。

――今後はそちらも要チェックですが、本連載で今回紹介していただくテーマは“殺人現場”です。また、カロリーが高そうな回になりそうですね……。

藤井:以前、アート寄りの死体写真や死後写真を紹介させてもらいましたが、今回は完全に犯罪現場の死体写真などを掲載した写真集を中心に紹介したいと思います。やはり、これらは当店に来るお客さんたちに人気ジャンルのようで、この間も若い女性が「犯罪現場の写真を見てみたい」と、名古屋からやって来ました。理由は「純粋な興味」だそうです。

――「純粋な興味」というのが逆に怖いところですけど……。

藤井:そんな犯罪現場写真集の中で定番といえるのが、『デスシーン・死体のある光景 無修正版』(第三書館)です。本書はロサンゼルス市警の警察官が収集していた事件・事故現場の写真のスクラップブックを、編集してまとめたものです。浴槽で寝入って溺死した写真や、頭部切断事件の現場写真などが収録されています。

純粋な興味を喚起する殺人現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本の画像1
提供:ゲンシシャ

――不謹慎な発言になりますが、以前紹介してもらった「Horsemaning(ホースマニング)」のせいでコラージュ・フェイク画像にも見えてしまいます。

藤井:確かに(笑)。でも、今回は本物のご遺体です。公衆便所で母親に殺された少女の写真なども載っていますよ。

――改めて写真を見ると、死体の汚れ方などディテールが生々しい気がしますね。年代的にはいつ頃の写真なのでしょうか?

藤井:1920〜50年頃の写真みたいですね。犯罪現場写真集マニアはみんな知っている一冊で、お客さんの中でも「これは持っている」という人が多い印象です。

――一部界隈ではベストセラー……。

藤井:本書は世界的にも有名な死体写真集『Death Scenes: A Homicide Detectives Scrapbook』の日本語版です。連載第6回で紹介したイギリス人画家のジェニー・サヴィルも、この本に掲載されている現場写真を元にした絵画作品を描いています。

ゲンシシャでもトップレベルで残酷な写真集

藤井:同じくロサンゼルスの犯罪現場の写真をまとめた『LAPD ’53』という写真集もありますが、こちらは洋書で本文は英語です。ロサンゼルスには「ポリスミュージアム」という博物館があって、そこに展示されている警察関係の写真がたくさん載っています。首を吊った人や、殺人現場の写真がたくさんありますね。

純粋な興味を喚起する殺人現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本の画像2
提供:ゲンシシャ

――資料として公式ルートで、こういう現場写真が見られるのですね。日本ではさすがに難しそうな気がしますけど……。

藤井:それはアメリカも同じで、こういった写真集は昔のモノクロ写真の時代のものが多いですね。また、『Murder in the City: New York, 1910-1920』は、タイトル通り1910〜20年のニューヨークの殺人現場の写真集で、判型が大きいところがおすすめポイントです。当時の警察は、犯罪現場を真上から俯瞰で撮っていたことがこの本で知ることができます。

純粋な興味を喚起する殺人現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本の画像3
提供:ゲンシシャ

――犯罪現場の写真集といっても、西海岸と東海岸それぞれあるのですね。

藤井:次に紹介するのは『Seine de crimes』というフランスの写真集です。本書は写真の印刷がキレイというだけではなく、内容のハードさもかなりレベルが高いですね。表紙が頭部を撃ち抜かれた人の写真ですから。

――ひぇ……。

藤井:フランスなので、ギロチンで切断された頭部の写真も載っています。ちなみに、ギロチンはフランス革命勃発後のイメージが強いですが、実は1977年まで使われていたそうです。

――現在、EUでは死刑制度が廃止されていますが、ギロチンが現役で使われていた期間というのはかなり長かったのですね。

藤井:そして『DEADLY INTENT CRIME & PUNISHMENT』は、当店でもトップレベルに残酷な写真集です。キャプションもしっかりしていて、資料性も高くオススメですよ。

純粋な興味を喚起する殺人現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本の画像4
提供:ゲンシシャ

――ん? この表紙の写真はどこかで見たことがあるような……?

藤井「死後写真」の回で紹介した「バーンズ・アーカイブ」という、写真コレクションのうちの1枚です。

――一家惨殺事件でベッドにまるで家族が眠っているように撮られた現場写真ですね。

藤井:はい。ほかにも、本書には自動車爆弾が爆発した現場写真や、パノプティコンの写真もありますよ。

――パノプティコンとは真ん中の塔に看守室があって四六時中、囚人を見張れる全展望監視システムの刑務所のことですね。

藤井:ほかには、露出狂が逮捕された際に「このような格好で股間を露出していました」という様子を再現した写真や、自殺するためにトイレの中で自分の頭をライフル銃で吹き飛ばした女性の写真も載っています。

――うわ、完全に首がなくなっていますね。

藤井:あと、タイトルに「パニッシュメント」とあるように、処刑関係の写真も豊富です。たとえば、日本の磔刑や獄門、中国の凌遅刑、頭に袋を被らされ、銃殺されたナチスの軍人の写真などが載っています。読むのになかなか体力を使いますね。

タイの週刊誌は死体OK! でも、乳首はNG?

藤井:2000年にアメリカで出版された『Muerte! Death in Mexican Popular Culture』というカラー写真集を紹介しましょう。メキシコの雑誌「Alarma!」には死体写真がよく載っていたのですが、この写真集はそうした雑誌に掲載されていた死体写真を集めたものです。比較的、最近の書籍なので1992年の写真なども載っています。

純粋な興味を喚起する殺人現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本の画像5
提供:ゲンシシャ

――我々からすると写真集にしてしまうことも含めて、すごい感覚だなと思ってしまいますね。

藤井:似たようなものに、「アチャヤーガム」という犯罪現場の写真がたくさん載っているタイの雑誌があります。日本でもその筋では有名ですよね。真偽は不明ですが、日本ではかなり高価な価格で取引されていた話もあるそうです。ほかにもタイには「191」という雑誌もあって、こちらにも死体がたくさん載っています。不思議な話ですが、こういった雑誌は死体の写真はバンバン載せているのに、女性の乳首はちゃんと隠しているんですよ。

――倫理観とか規制というのは本当にさまざまというか……。ところで、海外の雑誌の紹介はこの連載で初めてだったと思うのですが、ゲンシシャは雑誌の取り扱いもあるのでしょうか?

藤井:えぇ。海外雑誌から、割腹自殺した三島由紀夫の写真が掲載された「FRIDAY」(講談社)の創刊号、コンビニに置いてあるような雑誌まで揃えています。

――なんだか意外ですね。

藤井:これがなかなか資料性が高くて、例えば以前「怖い噂」(ミリオン出版)という雑誌を買ったところ、「津山三十人殺し」の報告書にある写真が転載されていることに驚きました。というのも、この『津山事件報告書』はアメリカのスタンフォード大学東アジア図書館にて閲覧が可能です。つまり、ライターの石川清氏がわざわざアメリカまで行って、資料請求したということですね。

純粋な興味を喚起する殺人現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本の画像6
提供:ゲンシシャ

――1年経ってもまだまだネタが尽きないですね。今回、紹介しきれなかった本も多いので、次回も少し犯罪現場テーマを続けたいと思います。

【ゲンシシャ連載】
第1回:店主が明かす超絶コレクションの秘密
第2回:死後写真集&隠された母
第3回:フォトショ以前のコラージュ写真と戦前の犯罪現場写真集
第4回:アートの題材となった死体写真
第5回:今では考えられない昔の医療
第6回:妊娠するラブドールに死体絵画
第7回:「見世物・フリークス」の入門書からポストカードまで
第8回:性器図鑑、変態性欲ノ心理、100年前のスパンキング写真集
第9回:超激レア本から学ぶ“切腹女子”たちの歴史とは?
第10回:食人を扱った奇書の数々
第11回:産道から出てくる赤ちゃんを接写… 超タブー「出産写真集」
第12回:UFO、UMA、心霊写真を網羅したオカルト事典の数々!

書肆ゲンシシャ 大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

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文=伊藤綾

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話うかがったり、イベントお邪魔したりするのが好き。サイゾーやSPA!、マイナビニュース、キャリコネニュース等で執筆中。友人や知らない人と毎月1日に映画を観る会(@tsuitachiii)を開催

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