人類史上初! 「反物質」をトラックの荷台に乗せて運ぶ実験に成功、爆発の危険性は?

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画像は「CERN」より

 SF映画やアニメでおなじみの「反物質」。物質と触れ合うと対消滅を起こして莫大なエネルギーを放出するため、兵器や宇宙船の動力源として描かれることが多い、あのヤバい代物だ。

 現実の世界でも、反物質の生成と維持は極めて難しく、長年「実験室から持ち出すことなど不可能」と考えられてきた。

 しかし今回、スイスの欧州原子核研究機構(CERN)の研究チームが、人類史上初めて「反物質をトラックの荷台に乗せて道路を走る」というクレイジーな実験に成功したのだ。

 ノーベル賞級の偉業と、皆が気になる「爆発したらどうなるの?」という疑問の答えに迫る。

92個の「反陽子」を乗せたトラックが爆走

 CERNの「反物質ファクトリー」を拠点とするBASEコラボレーションのチームは、特殊な磁場で粒子を閉じ込める「ペニング・トラップ」という装置に92個の「反陽子(反物質の一種)」を封じ込めた。

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画像は「CERN」より

 そして、この装置ごとトラックの荷台に積み込み、CERNの敷地内をぐるぐるとドライブしたのだ。

 走行距離は7.5キロ。当初は1周して戻るだけの予定だったが、あまりにも順調だったため「おい、もう1周行こうぜ!」とノリで2周してしまったという。

 基地に戻ってトラップの中身を確認すると、92個の反陽子は一つも失われることなく、無事に生き残っていた。チームの大学院生マルセル・レオンハルト氏は、「完璧に機能した! その瞬間、私たちはシャンパンを開けて祝杯をあげました」と興奮気味に語っている。

 トラックの側面にはデカデカと「Antimatter in Motion(反物質輸送中)」と書かれていたそうだが、1周目は誰も気に留めず、2周目でようやく写真を撮る人が出始めたという。周囲の人間からすれば「変な看板のトラックが同じところをぐるぐる回っている」くらいにしか見えなかったのだろう。

なぜわざわざ反物質を外に持ち出すのか?

 そもそも、なぜこんな危険(に見える)なものを外に持ち出す必要があるのか。

 実は、CERNの反物質ファクトリーは「うるさすぎる」のだ。反物質の性質を解明するには極めて精密な測定が必要なのだが、周囲にある巨大な粒子加速器が発する磁気ノイズのせいで、測定に支障が出ているという。

「加速器が動いている間により精度の高い測定をしようと計算したら、1回の測定に7年もかかるという結果が出ました」とBASEのステファン・ウルマー教授は語る。

 そこで、「静かな別の研究所に反物質をデリバリーして、そこでゆっくり調べよう」というプロジェクトが立ち上がったのだ。最終的な目的地は、CERNから約800キロ離れたドイツのデュッセルドルフ大学。今回はそのための予行演習だったというわけだ。

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交通事故が起きたら街が吹き飛ぶのか?

 反物質をトラックで運ぶと聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「事故ったら対消滅して大爆発するのでは?」という不安だろう。映画『天使と悪魔』のように、街が一つ消し飛ぶ規模の爆発を想像してしまう。

 しかし、ウルマー教授は笑ってこう答える。

「この輸送で一番危険なのは、トラックが事故を起こすこと自体です。なぜなら、トラックのタンクに入っているガソリンの方が、反物質よりも100万倍危険だからです」

 現在の人類の技術で作り出せる反物質の量は、ごくごく微量だ。確かに「0.5グラム」の反物質があれば都市を壊滅させられるが、今の技術で0.5グラムを作るには5億年かかると言われている。

 今回運んだ92個の反陽子がもし対消滅を起こしたとしても、発生するエネルギーは約30ナノジュール。これは「人間の脳のニューロンが30回発火する程度のエネルギー」でしかない。

 レオンハルト氏は「『もし爆発したらどうしよう?』と悩んで脳を使う方が、対消滅のエネルギーよりもよっぽどエネルギーの無駄遣いですよ」とジョークを飛ばしている。

 世界が終わる心配はないとはいえ、反物質が「出前」される時代が来るとは、科学の進歩には驚かされるばかりだ。

 ドイツの研究所が完成すれば、数年後にはアウトバーンを「反物質輸送車」が爆走する姿が見られるかもしれない。荷台の積み荷は絶対に「置き配」厳禁である。

参考:IFLScience、ほか

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