「意図せぬ大気改変」が頭上で進行中 —— 衛星の燃えカスが地球の大気を書き換える可能性

いま、私たちの頭上で「誰も管理していない地球規模の大気改変」が進行中だと聞いたら、あなたはどう感じるだろうか。しかもそれを行っているのは秘密結社でも軍事組織でもなく、スペースXをはじめとする宇宙産業だというのだ。ロンドン大学の研究チームが学術誌に発表した論文が、この「意図せざるジオエンジニアリング」の実態を突きつけ、波紋を広げている。
年間870トンの煤煙が大気圏に注入される
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)の大気化学教授エロイーズ・マレー氏らが学術誌『Earth’s Future』に発表した研究によれば、急増するロケット打ち上げと、役目を終えた衛星の大気圏再突入が、地球の大気組成を大規模に変化させつつあるとされている。
具体的な数字は衝撃的だ。2029年までにロケット打ち上げだけで年間約870トンもの煤煙が上層大気に放出される見込みだという。この量は、日本の大都市圏で走る大量の車が1年間に出す煤煙に匹敵する規模だ。しかもこの煤煙は地上ではなく、オゾン層が存在する成層圏に直接注入されるため、地上の排ガスとは比較にならない影響を及ぼす可能性が指摘されている。
衛星が燃え尽きるとき、鉛とアルミニウムが降り注ぐ
問題はロケットの排気だけではない。寿命を迎えた人工衛星が大気圏に再突入して燃え尽きる際、鉛やアルミニウムといった金属微粒子が上層大気にばら撒かれるという。研究チームの分析では、宇宙産業が気候に与える影響のうち衛星由来の汚染が占める割合は、2020年時点の25%から2029年には42%へと急拡大すると予測されている。
さらに懸念されているのが、これらの金属汚染物質がオゾン層を破壊する連鎖反応を引き起こす可能性だ。メカニズムの全容はまだ解明されていないが、もし大規模なオゾン層破壊が進行すれば、地上に降り注ぐ紫外線量が増加し、人体や生態系に深刻な影響を与えかねない。マレー教授は、宇宙産業による汚染は小規模だが規制されていないジオエンジニアリング実験のようなものであり、意図せぬ深刻な環境被害をもたらしうるとの見解を示している。
「ケムトレイル」ではないが、規制の空白は本物
ここで注意しておきたいのは、これはいわゆる「ケムトレイル陰謀論」——航空機が意図的に有害物質を散布しているという主張——とは本質的に異なるということだ。マレー教授らが指摘しているのは、正規の商業活動である宇宙開発が「副産物」として大気を汚染しており、しかもその汚染を規制する法的枠組みがほぼ存在しないという、より現実的で切実な問題である。
誰かが悪意をもって空に何かを撒いているわけではない。だが、結果として地球規模の大気組成が変化しつつあり、それを止める仕組みがないという状況は、ある意味で陰謀論よりも不気味だと言えるかもしれない。マレー教授は、影響が不可逆になる前に早期介入することの重要性を強調しているが、現時点では国際的な規制の議論すら本格化していないのが実情だ。

知らぬ間に書き換えられる空
宇宙ビジネスは今後も加速の一途をたどる。スターリンク衛星群に代表される大規模コンステレーション計画は次々と打ち上げられ、その分だけ「燃え尽きて大気に溶ける衛星」も増え続ける。私たちは夜空に人工衛星の光跡を見上げながら、その裏で大気が静かに書き換えられていく可能性に、まだほとんど注意を払っていない。
これが本当に地球規模の気候変動を引き起こすのか、それとも影響は限定的なのか。結論が出るのは、おそらくまだ先の話だ。だが少なくとも、「誰も全体像を把握しきれていない大気改変」が私たちの頭上で進行しているという事実だけは、知っておいて損はないだろう。
参考:Futurism、Earth’s Future、ほか
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