99人の乗組員ごと消えた原子力潜水艦USSスコーピオン —— 核兵器2発を抱えたまま水深3300mに沈む謎、3つの仮説はいまだ決着せず

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 いまも大西洋の海底深く、2発の核兵器が眠っている。1968年5月、ソ連の艦隊を尾行する極秘任務に出た米海軍の核攻撃型潜水艦USSスコーピオンが、99人の乗組員もろとも忽然と姿を消した。原子炉も、核弾頭付き魚雷も、ついに引き揚げられることはなかった。第二次世界大戦後に米海軍が失った潜水艦はわずか2隻——その一隻であるスコーピオンの沈没原因は、半世紀以上が過ぎたいまも「公式には未解決」のまま、専門家の間で議論が続いている。

ソ連スパイ艦隊を追え——隠密と高速を兼ね備えた「水中の刺客」

 スコーピオンはスキップジャック級と呼ばれる原子力攻撃型潜水艦だった。涙滴型に絞り込まれた船体は水中を高速で走るために最適化され、水中速力は33ノットに達した。全長約76メートル、水中排水量3000トン、隠密性と速度を兼ね備えた、まさに「水中の刺客」である。

 1968年5月20日、地中海での演習を終えたばかりのスコーピオンに極秘任務が下る。カナリア諸島南西海域に展開するソ連海軍の任務部隊を捕捉せよ——というものだ。この部隊はNATO艦艇の音響データを収集する諜報活動を行っていると見られていた。敵のスパイ艦隊を追うには、見つからないために設計された潜水艦こそうってつけ。5月21日、スコーピオンはアゾレス諸島南西250マイルの位置を報告し、27日に帰投予定だと伝えた。だが、これが乗組員たちの最後の交信となった。

アメリカ海軍 海軍歴史センター , パブリック・ドメイン, リンクによる

SOSUSが捉えた「船体崩壊」の音——水深3300mで全員死亡

 予定帰投日の5月27日、海軍はスコーピオンの行方不明を正式に宣言した。その数時間のうちに衝撃の事実が判明する。ソ連潜水艦の音響を捉えるために敷設された水中音響監視システム「SOSUS」が、スコーピオンの船体が圧壊深度を超えて沈んでいく際の「崩壊音」を記録していたのだ。

 公式記録によれば、発見は同年10月28日。アゾレス諸島南西およそ400マイル、水深約1万1000フィート(約3300メートル)の海底だった。99名の乗組員は誰一人として生還しなかった。海軍の査問委員会は調査を行ったものの、決定的な結論を公に示すことはなく、事件は宙吊りのまま現在に至っている。

魚雷暴発、水素ガス、そして「公式が否定する」第3の見立て

 スコーピオンの沈没については有力な仮説が複数あるが、いずれも証明されていない。最も重く見られているのが「魚雷暴発説」だ。海軍記念館の要約によれば、査問委員会は「魚雷事故が最も可能性の高いシナリオ」とした。発射管内で魚雷が誤って起動する「ホットラン」状態に陥り、自艦を攻撃した可能性が指摘されている。スコーピオンが予定針路から急に反転した形跡は、暴走する魚雷の自爆機構を作動させるための回避行動だったのではないか、というわけだ。

 次に「内部爆発説」。スコーピオンは故障が多く、一部の乗組員から「スクラップアイアン(くず鉄)」と陰口を叩かれるほどだった。ゴミ廃棄装置の不具合から海水が侵入し、69トンの蓄電池に達してショートや爆発を招いたとする説や、充電中の蓄電池が発生させる無色無臭の水素ガスが船体内に溜まって引火したとする「水素ガス説」も論じられている。

 そして近年、声を大きくしているのが公式とは異なる第3の見立てだ。2025年に専門誌に寄せられた論考で、ある著者は機密解除された査問委員会資料を読み解き、「船体外部における大規模な爆薬」の存在をうかがわせる手がかりがあると論じた。さらに、残骸は公式記録の10月下旬よりはるか早い6月初旬の段階で事実上発見されていた可能性がある、とまで踏み込んでいる。

 これは海軍の公式結論ではなくあくまで異論で、他の専門家からは反論も出ている。それでも半世紀を経てなお新たな解釈が提示され続けていること自体が、この事件の根深さを物語っている。

沈没したUSSスコーピオンの船首部分。パブリック・ドメイン、リンクによる

核兵器2発はいまどうなっているのか——残された99人の教訓

 スコーピオンは原子炉と核弾頭付き魚雷2発を海底へ道連れにし、いずれも回収されていない。これだけ聞けば別種の大惨事の幕開けのようにも思えるが、公式の環境記録はその印象よりずっと落ち着いている。海軍原子力推進プログラムの報告によれば、1979年・1986年・1998年の追跡調査で原子炉燃料からの放射能放出は確認されず、核魚雷のプルトニウム漏出も検出されなかった。報告は、残骸が「環境中の放射能に識別可能な影響を与えていない」と結論づけている。

 私たちはスコーピオンに何が起きたのかを永遠に知り得ないかもしれない。それでも、この悲劇が損傷した潜水艦の安全基準を抜本的に変え、後の世代の艦を確実に守ってきたこともまた事実だ。もし同じ惨事が繰り返されたとき今度こそ乗組員が無事に帰ってくる——その教訓だけは、大西洋の海底に沈んだ99人の犠牲が確かに残したものなのかもしれない。

参考:Popular Mechanics、ほか

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