先住民か渡来人か? 「ケネウィック人」のルーツ論争が遂に決着!?=アメリカ
■ケネウィック人と一番近縁なのはやはりネイティブアメリカン
しかしこれにはダグラス・アウズリー氏も黙ってはいなかった。
「彼のデータは挙証にならない」としながら、ケネウィック人とネイティブアメリカンにとても近しい関係があるとするならば、他の古代人のDNAとも比較すべきだと研究の信憑性に疑問を投げかけている。そして仲間の研究者らと出版した共著『Kennewick Man: The Scientific Investigation of an Ancient American Skeleton』で、ケネウィック人は日本のアイヌ人およびポリネシア人と深い関係があると結論づけた。
しかし今回のコペンハーゲン大学研究チームの論文では、ケネウィック人のアイヌ人およびポリネシア人との遺伝的関係性を否定している。
「(ネイティブアメリカンの人々のDNAのほかに)我々は特にポリネシア人、アイヌ人、ヨーロッパ人のDNAを入念に調べましたが、やはりケネウィック人と一番近縁だったのがネイティブアメリカンでした」と論文主筆のモータン・ラスムッセン氏は「Washington Post」の記事で言及している。頭蓋骨の形が白人種に似ているのはどうしてなのか? という疑問に対しては“単なる個体差”であるとラムッセン氏は説明している。
2004年に判決が下りいったんは決着を見たはずの“ケネウィック人論争”はまたこうして再燃することになった。今後、ネイティブアメリカン団体が再びケネウィック人の骨の返還を求めて訴えを起こすかどうかに注目が集まる。
■ケネウィック人の骨が弔われる日は来るのか…
実は近年、アメリカのネイティブアメリカンの団体と各地の博物館との関係は何かと物議を醸すものになっているという背景がある。
1990年に米国で「先住民人骨遺物の返還」を定める「アメリカ先住民埋葬地保全返還法(Native American Graves Protection and Repatriation Act、NAGPRA)」が制定され、先住民族の遺跡などの発掘で収集された文化遺産を当該の先住民部族に返還する法律が制定され、特に先祖の“遺骨”は再び埋葬して供養しなければならないという部族の主張が受け入れられるようになった。しかし1994年にはハワイの「ビショップ博物館」の保管庫からハワイアンの人骨標本が謎の消失を遂げるなど、博物館と特定の先住民コミュニティとの間に秘密裏に取引が行なわれていた疑惑も浮上。その土地に根ざす先住民文化や貴重な歴史的・文化的史料を保存したい博物館側と、一刻も早く先祖の霊を弔いたい先住部族の側に様々な軋轢を生み出すことになった。2000年には古代ハワイアンの遺物を収集した「フォーブス・コレクション」をめぐって激しい返還闘争も起った。
アメリカばかりではない。2012年にはフランス・パリの歴史自然博物館で展示されていたマオリ族のミイラの頭部20体がニュージーランドに返却されたり、イギリス・ロンドンの自然史博物館はこれまで展示していたオーストラリアの先住民・アボリジニの人骨をオーストラリアに返還することをこの3月に発表している。
“ケネウィック人”と名づけられたこの遺骨もいずれ弔われる日がやって来るのだろうか。アメリカの人類学、歴史学を揺るがしたケネウィック人の先行きが気になるところだ。
(文=仲田しんじ)
参考:「Washington Post」、「The Guardian」、「Indian Country」ほか
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