現代魔術研究第一人者が語る! バチカンがエクソシスト活動に積極的になった理由とは?

現代魔術研究第一人者が語る! バチカンがエクソシスト活動に積極的になった理由とは?の画像1バチカン・テープ」より。(c) 2014 LAKESHORE ENTERTAINMENT GROUP LLC AND LIONS GATE FILMS INC.All Rights Reserved

 悪魔に取り憑かれた女性の悪魔祓いを依頼されたバチカンの神父と悪魔との戦いを描いたオカルトホラー『バチカン・テープ』が7月9日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開された。


【話のあらすじ】

 ある出来事をきっかけに、アンジェラの周囲の人々が次々と重傷や死に追いやられる不可思議な事態が起こった。検査の結果、アンジェラは悪魔に取り憑かれた可能性があると診断される。バチカンのロサーノ神父はアンジェラの悪魔祓いを依頼されるが、彼女に取り憑いていたのは想像を上回る強力な古代の悪魔だった――。監督は「ゴーストライター2」「アドレナリン」シリーズのマーク・ネベルダイン。

 トカナでも毎回新着情報を更新している大・注目オカルト「悪魔祓い」。今回は、現代魔術研究・実践の第一人者、磐樹炙弦氏に映画と絡めて話を聞いた。


Q.『バチカン・テープ』映画をご覧になっての率直な感想をお聞かせください。

磐樹 大変興味深く観れました。これまで公開された悪魔祓いをテーマとした映画「エクソシスト」「ザ・ライト」に続く本格的なエクソシスト映画ですが、本作で最も際立っている特徴は、悪魔に対する一応のエクソシスト側の勝利で終わる上掲2作品と異なり、教会と反キリストの果てしない戦いの不穏な予感で幕を閉じる点です。決着の見えない「テロとの戦争」に突入した世界におけるエクソシストのナラティヴ(物語)の、構造的な必然性を感じます。

「エクソシスト」「ザ・ライト」については、東京リチュアルポッドキャストで取り上げて論じている回がありますので、ご参考ください。


Q.バチカンのエクソシストに実際にお会いしたりお話をされたことはありますか?

磐樹 今話題の国際エクソシスト協会(IAE)のエクソシストとは直接関係したことはありません。私の専門領域はどちらかというとバチカンからは「悪魔的」勢力と見做されるであろう側のほうでして、イギリスの現代ブードゥ司祭、ルーマニアの秘教セクト、日本の修験道行者、復興鬼道師範、現代魔女といった知人たちから、シャーマニックな神降ろし、祓い、治癒的儀式の実例について様々に伝え聞くことはあります。

 こういった現代スピリチュアリズム、魔術といった領域で行われる「憑き物落とし」的な行為と、バチカン・エクソシストたちの執り行う儀式は、本質的に差異はないと考えます。しかし最も異なる点は、バチカン・エクソシストは憑依する悪魔をまさに邪悪な存在として組み伏せ、罵倒し、制圧するのに対し、ブードゥや魔女宗、日本の修験道などでは必ずしも「邪悪」とは捉えず、ある種の神、善悪の曖昧な精霊として語りかけ、話を聞き出し、対話と交渉によってある意味でWIN/WIN関係を結ぶというスタンスをとることが多い点です。この差異は、一神教の明確な善悪概念区別に対し、現代心理学・精神医学、セラピー文化、及びその影響を受けた現代スピリチュアリズムの文脈において、善悪はそれほど明確に分離し得ないことに由来する故と考えます。

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Q.映画で描かれたような“悪魔に乗りうつられた状態”は日本でもありえますか?

磐樹 あり得るか、と問われれば、あり得る、という答えになります。私が立ち会ったある「精霊降ろし」の現場では、満月の夜に自らの身体の内に「いたち」的な精霊を降ろし、トランス状態に入った現代魔女が、一晩を通して獣のように右往左往し、最終的に離脱していくプロセスを目撃したことがあります。彼女はミッションスクール出身でキリスト教の基礎教養を持つ人でしたが、フルトランス状態では聖書の句もラテン語も飛び出さず、赤子のようにふるまっていました。興味深い点としては、憑依状態の彼女がタバコに強い執着を示した点です。これは南米シャーマニズムやカリブのブードゥなどでも共通して見られる特徴です。憑依された状態というのは通常の意識による行動の制御がかなり緩み、当然その行動は支離滅裂なものになりがちですが、そういう状況下では酒、タバコ、甘いものなど、身体的に強い依存の感覚をもたらすものが行動を強く誘導します。


Q.精神疾患が引き起こしている可能性と、悪魔が乗り移った可能性、見極めはどのようにするのでしょうか?

磐樹 この質問への答えは、視点により異なります。まず、精神疾患と悪魔の憑依を明確に区別する態度はバチカン・エクソシスト(ないし他の原理主義的宗派)に特有のものであり、精神科医や現代シャーマニズム実践者の視点からは、その区別はあまり意味がないものとする場合が多いと思われるからです。

 現代バチカンのエクソシズムに関する規定では、エクソシズム儀式を依頼された場合、エクソシストは事前に精神科医の意見を求めるよう定めています。結果的に、本当に「悪魔憑き」と認定される場合にのみ、司教の許可のもと本格的なエクソシズム儀式が遂行され、その数は決して多くないとのことです。バチカンは、こういった慎重な手続きを踏まずに安易に「悪魔憑き」認定と、ヒステリックな公開エクソシズム儀式を執り行う個別の司祭たちに頭を悩ませてきました。

 精神疾患とは区別されるべき「悪魔憑き」の特徴も、バチカンが近年改定した規定によって厳密に定義されています。
「本人の通常の身体能力をはるかに上回る怪力」
「本人が知りえない外国語を喋る」
「本人が知りえない情報(時にエクソシスト自身を含む関係者の秘密など)を告げる」
「十字架や聖水など宗教的象徴に対する嫌悪」
「釘や様々な物品を口から吐き出すこと」
などです。

 しかし、これらも精神医療のパラダイム内で説明し得る範疇にあり、これらが悪魔憑きの固有の特徴であるとするのはあくまでバチカン・エクソシスト側の言い分に過ぎない、という訳です。

 さすがに口から釘を吐き出すという現象は現代精神医療のパラダイムでは説明できませんが、例えば古代ラテン語や外国語を突然語りだす、というのは、映画、音楽、文芸やコミックなどありとあらゆる文化的記号がネットを通じてグローバルに流通する現代においては、精神医療・認知科学のパラダイムで十分に説明できる範疇でしょう。逆にいえば、昔に比べて現代のほうが、遥かな時空を超えて様々な時代・地域・文化の悪魔、天使、精霊、妖怪たちが、神出鬼没・跳梁跋扈しやすくなっている、と言えます。

 現代的な深層心理セラピー、シャーマニックな治癒的ワークでは、それが精神疾患というパラダイムで説明可能なものでも、精霊や神の憑依、インナーチャイルドやシャドウセルフというキャラクターとして扱い、相互的な関係性によって導き、祓い、統合する、といった方法論をとる場合が多いでしょう。それが本当には何者であるか、にはこだわらず、それが何を訴えているかに主眼を置く訳です。しかし、それでもなお手に負えないほどの邪悪さや攻撃性、超自然的な現象を引き起こすなど「悪魔的な」ケースの場合、バチカン・エクソシストの蓄積しているノウハウが役に立つのではないでしょうか。

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