山小屋から突如姿を消した猟師3人… 未解決【溶岩湖殺人事件】戦慄の冬山ミステリー
冬の山奥で3人のタフな男たちが惨殺された未解決事件がある。オレゴン州の山脈沿いの山小屋で起きた「溶岩湖殺人事件」だ――。
■3人のベテラン猟師が謎の死
現在は人気のキャンプ地になっている米オレゴン州ベンド郊外のカスケード山脈沿いにあるデシューツ国有林で、かつて3人のベテラン毛皮猟師が殺される殺人事件が起きている。凍った溶岩湖で遺体が発見されたことから名づけられた「溶岩湖殺人事件」は、今も謎に包まれた未解決事件だ。
1923年の秋、毛皮猟師のエドワード・ニコルズ、ロイ・ウィルソン、デューイ・モリスの3人は、米オレゴン州のカスケード山脈、デシューツ国有林にある溶岩湖のほとりの山小屋へと長期滞在の猟に出た。今でこそアウトドアファンに人気のキャンプ地だが、当時の周辺には道路もなく、まさに文明から隔絶された荒野であった。
いずれもベテランの猟師たちは首尾よく準備を整えて毛皮がとれる野生動物の捕獲に勤しみ、クリスマスの前の週には大量の毛皮を積んだソリで山を下りて町にやってきたニコルズの姿が目撃されている。また1924年1月15日、一帯のリゾート地のオーナーであるアレン・ウィルコクセンが所用のついでに山小屋を訪ねたのだが、3人の男たちはいずれも元気であったことを確認していた。しかしこの日が生前の3人が人目に触れた最後の日となったのだ。
12月以来、モリスの家族は3人からの連絡が途絶えたことが気になったが、本格的な冬山シーズンに山小屋へ行くことは危険であった。そして付近に仕掛けられていたミンクの罠が長らく回収されていないことを発見し、3人の安否についての疑惑は膨らむ。
雪解けを待って1924年4月、捜索チームが小屋を訪れるが山小屋には誰もいなかった。火の消えたストーブの上に置いてあった鍋には焼け焦げた料理が残っていて、食卓の上にはまだ手つかずの干乾びた料理がいくつか用意されていた。つまり、食事の直前に男たちは何らかの理由で山小屋から姿を消したことになる。
山小屋の外にはソリが見当たらず、小屋の離れの檻で飼われていた5匹の貴重なキツネはいなくなっていた。檻の中を詳しく調べてみると、片隅に血に染まった釘抜きハンマーが見つかったのだった。
捜索チームが付近で3人が仕掛けた罠を調べたところ、12匹のテン、4匹のキツネ、1匹のスカンクの凍った残骸が入った罠が見つかった。つまり、罠が仕掛けられてからかなりの期間、回収されずに放置されたままだったことになる。
翌日、郡保安官が率いる本格的な調査がはじまり、捜索チームは溶岩湖の岸の近くで3人のものと思われる大きなソリを発見した。ソリには黒ずんだ汚れがあったのだが、それは後で血痕であることが判明する。
捜索チームは湖に続く小道で、雪解けの中に血の溜まり、髪の毛の塊、人間の歯を発見し、まだ凍っていた湖の水面を覆う氷に人為的に穴が開けらている箇所を確認した。そして遂に、湖に浮かぶ3人の遺体を発見したのである。
■誰一人起訴できずに未解決事件へ
3人の遺体はいずれも酷いダメージを受けていて、検死の結果、ハンマーによる打撃と散弾銃による銃撃によって死亡したことが明らかとなった。そして捜査は殺人事件に切り替わることになる。
遺体の状態から、殺人は1923年12月下旬から1924年1月上旬に発生したと推定された。3人のうちの1人が山小屋で食事の準備をしていたところを襲われ、ほかの2人はその前後に別の場所で銃撃に遭って殺害された後、3人の遺体がソリで湖に運ばれて氷に空けた穴から沈められたと考えるのが妥当であった。犯人は1人以上と推測され、単独でも犯行は可能であると考えられた。
警察はすぐに容疑者を割り出し、山小屋からそれほど遠くないカルタス湖の小屋に住んでいるインディアン・エリクソンという名の密造酒造りの人物を疑った。しかしアリバイが立証されるとすぐに釈放した。
次にリストアップされたのは同業の毛皮猟師、チャールズ・キムゼイで、昨年の夏にニコルズの財布を盗んだのではないかという疑惑で2人は喧嘩をしていたのだった。さらにキムゼイにはいくつもの犯罪歴があり、1923年には荷馬車の荷物を強奪し、運転手の殺害を試みたことで逮捕されている。しかし、事件が裁判にかけられる前に逃亡をはかったのだった。
当局はキムゼイの捜索における情報提供に1500ドルの報奨金を公示したが、彼がどこにいるかは誰にもわからなった。キムゼイが経験豊富な猟師であることを考えると、荒野に隠れていることがじゅうぶんに考えられた。1924年1月24日には毛皮でいっぱいの袋を持って町にやってきたキムゼイが、毛皮商人に毛皮を売ったのではないかという目撃証言も出てきた。
この「溶岩湖殺人事件」の9年後の1933年2月17日、キムゼイはモンタナ州カリスペルで発見されて警察に逮捕され、尋問のためにオレゴンに連行された。警察はキムゼイを起訴しようとしたものの、1924年1月に毛皮を購入した毛皮商人はその男をキムゼイと明確に特定することができず、また事件当時のキムゼイはモファットトンネルで坑夫として働いていたと言い張り、溶岩湖の殺人のすべてについて否定したことで起訴は取り下げられることになる。
しかしキムゼイは1923年のハリソンの殺人未遂で起訴され、オレゴン州立刑務所で終身刑を宣告された。キムゼイは罪を償うことになったが、依然として「溶岩湖殺人事件」は公式にも未解決のままである。
本事件を取り上げた2013年の著書『The Trapper Murders』の中で、犯罪ノンフィクション作家のメラニー・タッパーは、キムゼイがレイ・ジャクソン・ヴァン・ビューレンという男と組んでいたことを指摘している。
しかし、ヴァン・ビューレンが関与していたのか、またはキムゼイが共犯者であったかどうかは証明されておらず、あろうことかヴァン・ビューレンは1938年に自殺し、真実は彼と共に墓に封印されることなる。そしてもちろんキムゼイもその後に亡き人物となる。
今日まで「溶岩湖殺人事件」はまったく解明の糸口が見つからず、誰一人殺人罪で起訴されていない。3人の毛皮猟師が凍った湖でどのように死亡したのか、誰が何の目的で殺したのか、依然として謎に包まれたままだ。そしておそらく、このままコールドケースとして永遠に真相は闇の中に葬り去られるのだろう。3人が山小屋に滞在中、1度は毛皮を売りに町に出ていることから、山小屋の中にはそれなりに多額の現金があったとしてもおかしくはない。どこからかそれを知って現金を強奪に来たキムゼイの犯行だと考えられなくもないのだが……。
参考:「Wikipedia」、ほか
※当記事は2022年の記事を再編集して掲載しています。
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