「1年間、生活のすべてをAIに任せてみた」——テック記者が突き止めた”機械が人間に勝てない理由”とは!?

AIは人類の仕事を奪うのか。それとも、ただの便利な道具で終わるのか——。この巨大な問いに、ひとりの女性記者がきわめて泥臭い方法で挑んだ。
哲学的に論じるのではなく、まる1年間、自分の生活そのものをAIに明け渡してみたのだ。乳がん検診から歯のチェック、そして家庭の雑事まで。その記録をまとめた一冊が、いま静かな話題を呼んでいる。
1年間、生活のすべてを人工知能に「丸投げ」した記者
実験に身を投じたのは、アメリカのテクノロジー・ジャーナリスト、ジョアンナ・スターン氏だ。10年以上にわたって大手経済紙でテクノロジー分野を取材してきた、この道のプロである。
彼女は『I Am Not A Robot(私はロボットではない)』と題した著書のなかで、ひとつの誓いを立てる。まるまる1年間、可能なかぎりあらゆる場面に人工知能を組み込んで暮らしてみる、というものだ。
舞台は米ニュージャージー州。妻のミシェル氏と幼いふたりの息子との家庭に、彼女はAIを招き入れた。そして「どれほど楽しく、役に立ったか」と同時に、「どれほどの大惨事を招いたか」を包み隠さず報告していく。AIをめぐる議論が抽象論に流れがちななか、一個人の生活という最小単位から検証しようとした点に、この試みの面白さがある。
ANI・AGI・ASI——「3段階の人工知能」と日常に忍び込む機械
スターン氏はもうひとつ、本を可能なかぎり分かりやすくするという誓いも立てている。多くの人がAIを恐れるのは、そもそもそれが何なのかをよく知らないからだ、という問題意識からだ。
そこで彼女は冒頭に、ていねいな用語集を置く。ひとつの作業だけを得意とする「特化型人工知能(ANI)」。自動運転車などがこれにあたる。次に、人間と同程度に幅広いことをこなせる「汎用人工知能(AGI)」。まだ到達してはいないが、着実に近づいているとされる段階だ。
そして最後に身構えるべきものとして挙げられるのが「人工超知能(ASI)」である。これが実現すれば、人類はもはや地球上で最も賢い存在ではなくなる、と位置づけられている。
本書はこうした概念整理を下敷きに、特化型AIとのさまざまな「遭遇」を軽快な筆致で描いていく。たとえばAIを用いた乳がん検診(マンモグラフィ)を受け、AIによる歯科診療を体験する。便利さと滑稽さ、そして時に背筋の寒くなるような出来事が、家庭のなかで次々と起こっていく。
「それでも機械は人間に取って代われない」——軽やかさの裏にある問い
もっとも、この本に手放しの称賛ばかりが寄せられているわけではない。書評では、随所に挿し込まれた愛らしいイラストや、文章を区切るための遊び心ある記号といった「読みやすさの演出」が、かえって過剰だと指摘する声もある。
医療の話題には聴診器、歯の話題には臼歯のマークといった具合に、テーマに合わせた装飾が散りばめられている。落書きを添えなければ読めない文章ばかりになれば、それこそAIに追い抜かれる日は近いのではないか——と、皮肉まじりの懸念さえ呈されているほどだ。
それでも、AIが人類を追い越すことはないだろう、という見立ては揺らがない。その根拠としてスターン氏が最終的にたどり着くのは、テクノロジーの性能ではなく、人間そのものの不完全さや厄介さなのだという。完璧に整理された機械の論理では割り切れない部分にこそ、人間らしさが宿る——本書はそんな結論へと向かっていく。
1年間、生活を機械に明け渡してなお消えなかったもの。便利さの陰で取りこぼされる「人間くささ」を、私たちはどこまで手放せるのか。AIに何を任せ、何を手元に残すのか——その線引きを迫られる時代は、もうすぐそこまで来ている。
参考:Daily Mail、ほか
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