地球工学「成層圏エアロゾル注入(SAI)」の危険性! 散布した二酸化硫黄が旅客機内で「硫酸の霧」になるという衝撃の試算

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 加速する地球温暖化への切り札として、太陽光そのものを人為的に遮ろうとする壮大な計画が世界の科学界で議論されている。だが、その実現手段の一つに思わぬ落とし穴があることが分かってきた。

 成層圏に撒かれるはずの化学物質が、よりによって旅客機の機内に忍び込み、乗客と乗員を有害な酸性の霧にさらす恐れがあるというのだ。空を守るはずの技術が、空の旅そのものを脅かしかねない——そんな皮肉な警告が、いま研究者から発せられている。

火山の噴煙を人工的に再現する「太陽放射改変」計画

 温暖化対策として近年注目を集めているのが、「成層圏エアロゾル注入(SAI)」と呼ばれる地球工学の手法だ。

 大規模な火山噴火が起きると、噴煙に含まれる硫黄成分が成層圏で硫酸の微粒子となり、太陽光を反射して地球を一時的に冷やすことが知られている。この自然現象を人工的に再現しようという発想である。

 米ラトガース大学のアラン・ロボック教授によれば、成層圏には雨が降らないため、硫酸の粒子は地表付近の汚染物質より50倍も長く滞留し続けるという。

 試算では、赤道上空に約1200万トンの二酸化硫黄を注入すれば、地球全体の気温を0.6〜1度押し下げられ、パリ協定の「気温上昇1.5度未満」という目標を守れる水準になるとされる。

 ただしこの手法は論争的でもある。米コロンビア気候大学院の研究では、極域での散布が熱帯モンスーンの循環を乱し、海面水位に影響を及ぼす可能性が指摘されているという。

旅客機の航路に重なる「散布ルート」という誤算

 理想的な散布高度は地上13〜15キロ。一般的な旅客機がどう頑張っても届かない高さだ。

 そこで浮上しているのが、ボーイング777型機を改造し、成層圏が地表近くまで下がる極地上空で散布するという代替案だ。だがそこは、北米とヨーロッパ・アジアを結ぶ旅客機の国際航路そのものである。

 商用旅客機は通常、エンジンのコンプレッサーを通した外気を環境制御システムで処理し、そのまま機内に取り込む仕組みになっている。散布された二酸化硫黄ガスがこの経路に入り込めば、化学反応を起こして刺激臭のある硫酸へと変化してしまう。

 エアロゾルは帯状に撒かれるため濃度にはばらつきが生じるという。試算では1立方メートルあたり約7マイクログラムで済む地点がある一方、最大50マイクログラムに達する地点もあり、後者はEUの「危険」水準を上回るとされる。

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呼吸器への刺激からストロークリスクまで指摘される健康被害

 硫酸を吸い込むと喉や肺に炎症を起こし、喘息発作の引き金にもなり得るという。濃度が高まれば気道が締めつけられ呼吸困難に陥るほか、長期曝露は脳卒中リスクを高めるとの報告もあるそうだ。

 極地ルートを日常的に飛ぶパイロットや客室乗務員にとって、看過できない健康リスクとなりかねない。なお機体そのものへの物理的な損傷リスクは低いとみられている。

ロボック教授はこうしたリスクを踏まえ、高高度でのSAI実施が困難になる可能性があると述べている。安全な水準を見極めるにはさらなる研究が必要で、それは現行案より少ない量、限定的な冷却効果になるだろうという。

 一方、米ハーバード大学の気候研究者ウェイク・スミス博士は異なる立場を取る。リスクは研究に値するが、過度に危険視すべきではないという。仮に危険と結論づけられても、現在は二酸化硫黄を除去しない設計の客室用フィルターを改良すれば対応でき、SAIを選択肢から外す理由にはならないと同博士は語る。

 太陽光を遮り地球を冷やすというアイデアは、気候危機への数少ない「即効性のある一手」として期待を集めてきた。だがその実現には、何百万人もの乗客の頭上を目に見えない酸の霧が通り過ぎかねないという皮肉な代償が潜んでいる。

 地球を冷やすための技術が、上空の旅人たちにとって新たなリスクとなるのか——その答えは、これからの研究を待つほかない。

参考:Daily Mail、ほか

TOCANA編集部

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