【人類史上最悪の年】太陽の光が消え、夏に雪が降った……「西暦536年」の暗黒の連鎖

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人類の歴史で最悪の年はいつか?」と聞かれたら、あなたは何年を思い浮かべるだろうか。

 世界中が死の恐怖に包まれた第二次世界大戦の1945年か、あるいはパンデミックが始まった2020年か。

 しかし、歴史家や気候科学者たちが「人類史上最悪の年」の最有力候補として挙げるのは、今から約1500年前の「西暦536年」である。この年、地球の北半球から「太陽の光」が消え去った。

太陽が「月」になった暗黒の1年

 西暦536年、ヨーロッパや中東、アジアの一部で、人々は空を見上げて絶望した。

 ビザンツ帝国の歴史家プロコピオスは、「太陽はその明るさを失い、1年を通して月のように弱々しい光を放っていた」と記録している。ローマの政治家カッシオドルスも「太陽は青っぽく見え、いつもの光を失っていた」と書き残している。

 日差しが消えた地球は、急激な寒冷化(火山の冬)に襲われた。中国では真夏に雪が降り、世界中で農作物が壊滅。アイルランドの年代記には「536年から539年までパン(パンの原料である麦)が失敗した」と記されている。

 この「暗黒の年」の原因は、現代の科学によって明らかになっている。

 グリーンランドや南極の氷床コア(氷のサンプル)や、世界中の樹木年輪を分析した結果、536年頃に北半球(おそらくアイスランド付近)で超巨大な火山噴火が起きたことが判明したのだ。

 噴火によって大気圏の奥深くに巻き上げられた硫黄の粒子が、地球を覆う「ベール」となって太陽光を宇宙へ跳ね返してしまった。これにより、ヨーロッパの夏の気温は1.5〜2.5度も急降下し、過去2000年間で最も寒い時期へと突入したのである。

 さらに不運なことに、そのわずか数年後(539年か540年頃)には、現在のエルサルバドルにあるイロパンゴ火山も大噴火を起こし、地球の寒冷化にトドメを刺した。

飢餓、そしてペストという「絶望の連鎖」

 前近代の社会において、日照不足と寒冷化は「絶対的な飢餓」を意味する。

 農作物が育たず飢饉が起きれば、人々の免疫力は低下し、難民となって移動することで争いが起きる。オーストラリア・カトリック大学のマイレス・パッテンデン博士は「前近代の世界では、一つの災害が起きるとそれがフィードバックループ(悪循環)となり、次々と別の災害を引き起こす」と指摘する。

 そして、飢えて弱り切った人類の前に、最悪のトドメがやってきた。

 541年、地中海沿岸に「腺ペスト」が到達したのだ。後に「ユスティニアヌスの斑点(ペスト)」と呼ばれるこの疫病は、ビザンツ帝国を直撃し、数え切れないほどの命を奪った。当時の記録には「吐血する人々、山積みの死体、死の悪臭」という地獄絵図が残されている。

「普通の夏」が戻るまで100年かかった

 寒冷化、飢饉、そしてペスト。これらすべてが西暦536年を起点にして一気に人類を襲ったのだ。

 パッテンデン博士は当時の絶望的な状況をこう例える。

「もしあなたが535年の夏に18歳の若者だったとしたら、子どもの頃に経験したような『暖かくて普通の夏』を再び経験するためには、80歳か100歳まで生き延びなければならなかったでしょう」

 当時の平均寿命はせいぜい30〜40歳であり、子どもの半数は20歳までに死んでいた。つまり、536年以降に生まれた人々の多くは、一生「太陽が眩しく輝く、暖かく豊かな夏」を知らないまま死んでいったのだ。

 北欧の神話に登場する、世界の終末(ラグナロク)の前に訪れる長く厳しい冬「フィンブルの冬」の伝説は、この536年の記憶が神話化されたものだと考える研究者もいる。

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暗闇のトンネルを抜けた人類

 この暗黒の時代は、文明を完全に滅ぼすことはなかったが、世界を大きく作り変えた。ビザンツ帝国は衰退し、人口は激減し、経済は崩壊した。

 スイスの氷河から採取された氷のデータによれば、北半球の経済がようやく回復の兆しを見せ始めたのは、約100年後の「西暦640年頃」だという。この頃の氷には大気中の「鉛」の成分が急増しており、これは銀の採掘と製錬が再び活発になり、中世の新しい商業(商人階級)が立ち上がり始めた証拠だとされている。

 私たちが今、どれほど社会や政治の混乱に不満を抱いていたとしても、西暦536年の人々に比べれば「延長戦のボーナスタイム」を生きているようなものだ。

 彼らにとって最も恐ろしかったのは、「寒さと飢え」そのものではなく、「この太陽のない暗闇が、いつ終わるのか誰にも分からなかったこと」だろう。

 太陽は最終的に戻ってきた。しかし、生き残ったわずかな人々が見た世界は、かつて彼らが知っていた世界とは全く違うものになっていたのである。

参考:ZME Science、ほか

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