脳が意識を生むのではなく、意識が宇宙を生んでいる!? 世界的神経科学者が唱える”現実は幻想”説

私たちは当たり前のように、脳という物質のかたまりが「意識」を生み出していると考えている。だが、その因果関係が実は逆だったとしたら——。
いま脳科学の最前線で、そんな途方もない問いが真剣に議論されている。物質こそが幻で、意識こそが宇宙をかたちづくる根源だというのだ。しかも唱えているのは神秘家ではなく、数十年も脳を追い続けてきた世界屈指の神経科学者その人である。
意識こそが唯一の実在? 神経科学者コッホ氏の”大転換”
この説の中心にいるのが、米アレン脳科学研究所の著名研究者クリストフ・コッホ氏だ。長年「脳のどこで意識が生まれるのか」を科学的に突き止めようとしてきた人物である。
その彼が近年、驚くべき立場を打ち出している。真に存在するのは意識だけであり、目に見える物質宇宙はその意識が立ち現れた姿にすぎないのではないか、というのだ。
背景には有名な”賭け”がある。1998年、コッホ氏は哲学者デイヴィッド・チャーマーズ氏と、意識を生む脳の仕組みが2023年までに解明されるかをめぐって賭けをした。だが期限が来ても答えは出ず、コッホ氏は敗北を認めて上質なワインを差し出したうえ、決着の期限をさらに2048年まで延長したと伝えられている。
この見解は2026年4月、ポルトガルで開かれた意識研究のシンポジウムで改めて示され、波紋を広げている。
唯物論が突き当たる「3つの壁」
チャーマーズ氏は1990年代半ば、「意識のハード・プロブレム」を提唱した。脳のどの部位が知覚に関わるかを突き止める「易しい問題」と、なぜそこに主観的な体験そのものが宿るのかという「難しい問題」はまったく次元が異なるという指摘で、後者にはいまだ誰も答えられていない。
コッホ氏は、唯物論の限界が露呈する領域として3つを挙げているとされる。第一に、脳画像技術がどれほど進歩しても、神経細胞の活動と「今これを感じている」という主観的体験との溝が一向に埋まらないこと。
第二に、量子力学のパラドックスだ。ミクロの世界では観測されて初めて物質の性質が定まり、遠く離れた粒子どうしが瞬時に影響し合う「量子もつれ」も確認されている。現実が観測とは無関係に存在するという前提が揺らいでいるのだ。
そして第三に、臨死体験や、重度の認知症患者が死の直前に突然明晰さを取り戻す「終末期明晰」など、脳の物質的状態だけでは説明しきれない現象の存在だという。
汎心論とIIT——「万物に意識が宿る」への賛否
意識を宇宙の根源とみなす発想自体は、思いつきではない。18世紀の哲学者バークリーの観念論や、意識が自然界に程度の差をもって遍在するとする「汎心論」など、思想史に長い系譜を持つ。
これを現代科学の言葉で再構築したのが、神経科学者ジュリオ・トノーニ氏の「統合情報理論(IIT)」だ。システムが統合する情報量を「Φ(ファイ)」で測り、その値が十分に高ければそこに主観的体験が生じるとする。コッホ氏はこの理論の主要な擁護者でもある。
もっとも反発も強い。2023年には多数の神経科学者が、IITは万物に意識を認める汎心論に近づきすぎているとして反対の公開書簡を出した。これに対しコッホ氏らは、意識は統合情報が局所的に極大となる場所に個別に宿るのであり、あらゆるモノが溶け合った”集合意識”を形づくるわけではないと反論している。
答え合わせは2048年か——現実の土台をめぐる問い
コッホ氏が延長した賭けの期限は2048年。それまでに脳の謎が解けるのか、それとも「私たちが見ている世界は意識の見せる像にすぎない」という逆転の発想が主流になるのか。答えはまだ誰の手にもない。だが少なくとも、科学が長年当然としてきた「物質が先、心は後」という前提そのものが、いま真剣に問い直され始めていることは確かだ。
参考:Mysterium Incognita、ほか
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