【AIの代償】夜通し響く低い唸り音と気温を最大9度押し上げる異常な熱気…… データセンター密集地で暮らす住民の日常

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 昼も夜も止むことのない低い唸りが、住宅街の空気をかすかに震わせている——。英国バークシャー州スラウ。旧発電所の巨大な冷却塔が戦後の住宅街の上に今もそびえるこの街の工業地区には、別種の「巨獣」たちが林立しはじめた。

 1平方マイルの範囲に集中する、30ものデータセンターである。住民たちはこの夏の熱波のさなか、施設に助長された「うだるような暑さ」への苦情を訴えた。AIブームの心臓部と化した街では、いったい何が起きているのか。

1平方マイルに30基——欧州で最も密集した「サーバーの森」

 コメディドラマ『ジ・オフィス』の舞台としても知られるスラウ・トレーディング・エステートは、いまや「英国のデータセンター首都」と呼ばれている。1平方マイル(約2.6平方キロ)の敷地に30の施設がひしめく密集度は、ヨーロッパで最も高いとされる。スラウ全体では約40施設を数えるという。

 運営するのは複数の国際企業で、アマゾン、Google、マイクロソフトをはじめとする多数の顧客のために、デジタル情報を保管・処理・伝送している。スマートフォンで撮った写真をクラウドに預け、生成AIに質問を投げる——その処理の一部は、いまこの瞬間もこの街のどこかで走っていることになる。

 つまりスラウは、目に見えないはずのインターネットが物理的な姿をとって地上に現れた場所だ。そして物理的である以上、熱と音からは逃れられない。

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Sloughmani投稿者自身による著作物, CC 表示 3.0, リンクによる

気温プラス2度、最大9度——「データセンター熱島」

 ケンブリッジ大学のスタッフらが主導した査読前の研究によれば、データセンターは周辺に「ヒートアイランド現象」を引き起こし、気温を平均で2度、条件によっては最大9度も押し上げる可能性があるという。

 数千台のサーバーを24時間止めずに回し続けるには膨大な電力が要る。さらに機器の過熱を防ぐ強力な冷却システムには大量の水も必要で、地域のインフラに負荷をかけているとされる。電気は熱に変わり、熱は建物の外へ吐き出される。きわめて単純な物理法則が、街のスケールで進行しているわけだ。

 住民からは、夜間に施設の低い唸り音が聞こえるという声も上がっている。エステートに隣接する住宅地に住む男性は、音のほうは我慢できるが、先の熱波のときの暑さは耐え難かったと語ったという。

 エアコンの室外機を、街ひとつ分の大きさに膨らませたようなもの——そう考えれば、住民の実感に近いのかもしれない。

240台のディーゼル発電機と、校庭に流れ込む排気

 非営利団体グローバル・アクション・プランとフォックスグローブは、スラウでのデータセンター建設のモラトリアム(一時停止)を求め、政府担当閣僚への書簡を準備していると伝えられる。両団体は過去にも訴訟で環境保護をめぐる政府側の判断の誤りを認めさせ、別の計画を撤回に追い込んだ実績があるという。

 同団体の地域キャンペーン担当者は、膨大な数の施設が計画されるなか電力網が需要にどう応えるのか不透明であり、送電網増強のコストを誰が負担するのかという問題も残ると指摘したと伝えられている。

 スラウから6マイル離れた小村アイヴァーでも施設計画が進む。住民協会の共同代表を務める66歳の男性は、そもそもデータセンターとは何かを知らない人が多く説明の壁は大きいとしつつ、自分たちはテック嫌いでも施設反対派(NIMBY)でもないが一時停止は必要だ、との考えを示したという。

 ロンドン郊外ポッターズ・バーでは、米エクイニクス社が85エーカーの田園地帯に「ウェンブリー・スタジアム規模」の施設群を計画している。投資額は39億ポンド、稼働に必要な電力は250メガワット——実に20万世帯分に相当する。2500人分の建設雇用と年間1800万ポンドの税収が見込まれるとされ、地元区議会はすでに概要計画を承認済みだ。

 一方、近隣の名門校に2人の子を通わせる58歳の女性は、施設に240台のディーゼル発電機が設置され、授業時間中にも稼働する見込みだとして、排気ガスや粒子状物質が校庭に流れ込む恐れを訴えたと伝えられる。記録的猛暑が続く近年、この一帯が「温室」に作り変えられかねないとの懸念も口にしたという。

 AIの利便性を享受しているのは、私たち全員だ。だがその計算を実際に回している熱と音は、必ずどこかの誰かの家の窓の外に排出されている。スラウの住民が夜ごと聞いている低い唸りは、クラウドという言葉が覆い隠してきた「重さ」が、ついに地上に降りてきた音なのかもしれない。

参考:Daily Mail、ほか

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