登山者の尿がエベレストの氷河を溶かしていた! 1シーズン33万リットル、氷150トン分の熱量と試算

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 世界最高峰エベレストの麓で、登山者たちが自分でも気づかぬうちに氷河を削り続けている——という研究結果が発表された。犯人はストーブの炎でも、ヘリコプターの排気でもない。人間の尿である。

 ネパール測量局の研究チームの試算によれば、たった1シーズン分の尿だけで、氷150トン以上を溶かすだけの熱量が氷河に注ぎ込まれていた可能性があるという。冗談のような話だが、これは査読付きの学術誌に掲載された正式な研究だ。

1人1日3.181リットル、総量33万リットルという試算

 舞台は標高約5364m(約1万7598フィート)に位置するクンブ氷河。世界最高地点にある氷河であり、エベレスト登頂を目指す者が必ず経由するベースキャンプも、この氷の上に設営されている。

 研究チームが着目したのは2023年の春シーズンだ。この期間、2000人を超える登山者・トレッカー・サポートスタッフがベースキャンプに滞在していた。

 計算は驚くほど即物的である。ベースキャンプでの1人あたりの1日平均尿量は約3.181リットル。平均滞在日数を50日、滞在者数を約2127人として掛け合わせると、シーズン中に氷の上へ排出された尿の総量は約33万8299リットルに達する。

 学校の25mプールがほぼ満杯になる量が、氷河の表面に注がれ続けている計算になる。

なぜ「体温と同じ37度」が氷を削るのか

 研究者らが問題視しているのは、量そのものよりも温度だ。高地の氷は常に0度以下に保たれている。そこへ体温とほぼ同じ約37度の液体が直接かけられれば、氷はその熱を受け取るしかない。

 1回分はコップ数杯程度の熱にすぎない。だが数千人が50日間繰り返せば、話は変わってくる。

 2003年以降、エベレスト・ベースキャンプでは排泄物を青いバレル(樽)に回収する仕組みが導入されてきた。しかし尿はその対象外で、従来どおり氷の上に流されている。それがクンブ氷河にどれほどの影響を与えているのかは、長らく誰も測っていなかった。

 キム・ラル・ガウタム氏が率いる研究チームが学術誌「Regional Environmental Change」に発表した論文は、この空白を埋めようとした試みである。

 ただし、研究チーム自身がはっきりと留保を付けている。150トンという数字は、排出された熱がすべて氷に伝わったと仮定した場合の値だ。現実には堆積物への浸透や流出、不完全な熱伝達によって熱は目減りする。つまりこれは上限値であり、実際の融解量はこれより小さいとみられている。

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研究チームが突きつけた「ベースキャンプ移設」という処方箋

 それでも結論は明快だ。研究チームは、ベースキャンプを氷の上から氷のないエリアへ移設するよう求めている。

 人為的な氷河融解を抑えられるだけでなく、崩落事故が絶えないクンブ・アイスフォールへの負荷が減り、遠征そのものの安全性も高まる、というのが彼らの主張である。ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域の急速な氷河融解は、地域社会の水資源問題であると同時に、海面上昇を通じて地球規模の影響も及ぼす。

 皮肉なことに、この研究が表に出たのは、エベレストのゴミ持ち帰り制度が廃止された直後だった。2014年に始まったこの制度は、登山者に4000ドル(約60万円)のデポジットを課し、下山時に8kg以上のゴミを持ち帰れば返金するというものだ。

 だが実際には、ゴミが山積みになっている高所キャンプではなく、条件の緩い低地のキャンプでゴミをかき集めて要件を満たす抜け道が横行していた。サガルマータ汚染管理委員会(SPCC)のツェリン・シェルパ氏によれば、高所から持ち帰られるのは酸素ボンベくらいで、テントや缶、食品の梱包材はほとんど置き去りにされているという。

 世界最高峰の氷を削っているのは、地球温暖化という壮大な現象だけではないのかもしれない。頂を目指す者が一人ひとり残していく、ごく個人的な数百ミリリットル。それが数千人分積み上がったとき何が起きるのかを、私たちはまだ正確に測れていないようだ。

参考:Daily MailRegional Environmental Change、ほか

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