北朝鮮拉致被害者「横田めぐみ」にまつわる皇族説の謎

Tomoyuki MizutaによるPixabayからの画像

 1977年11月15日、当時13歳であった横田めぐみさんは、部活動からの帰宅中に北朝鮮工作員により拉致された。 2002年に、小泉純一郎首相が訪朝して金正日国防委員長と会談を行なったことで、北朝鮮側がそれまで否定してきた拉致問題を正式に認め謝罪した。その際、横田めぐみさんを含む13人の拉致を認め、うち彼女を含む8人が死亡していることを発表するに至った。

 だが、横田めぐみさんの死亡については当時から疑問視されていた。2004年には北朝鮮から、彼女の夫が保管していたという遺骨が提出されたのだが、DNA鑑定によって別人のものであると判断され、現在も彼女は生存しているという見方が強まったのだ。しかし、本当に彼女が今も存命であるとして、なぜ北朝鮮は死亡を偽造してまで隠す必要があるのだろうか。

 彼女が帰国できない理由とされている説の中に、北朝鮮に関する「重大な秘密」を知ってしまったがために帰国が許されていないのではないかというものがある。一説によれば、横田めぐみさんは金正日の子どもたちに日本語を教えており、金家の内情を知りすぎた、それはつまり北朝鮮の機密事項を知りすぎたために、表に出すことができないのではないかと言われている。

 その中で、 横田めぐみさんは特別な血筋であったために拉致されたという、奇妙な異説が一部で囁かれている。その内容とは彼女が北朝鮮と日本の両方の皇族の血統を受け継いだ存在であるというのだ。彼女の母横田早紀江の母親は李方子(りまさこ) という日本の皇族の出身者であり、李氏朝鮮最後の皇太子李垠(りぎん)に嫁いだのだという。そして、この李氏朝鮮の皇族の血統を持つ横田めぐみさんは金正日の妻として迎えられ、 その間で生まれたのが現在の北朝鮮のトップである金正恩であるというのである。彼女の夫とされている韓国人拉致被害者の金英男(キムヨンナム)は、監視警護する特殊諜報部隊の隊員であったというのだ。

 だが、この説はどう見ても納得できるものとは言えない。何より、先の説によれば母早紀江は明確な李王朝と日本の皇室のハーフであ り、それを理由にして解決のカードとして役立ててもおかしくないはずである。そもそも、皇太子李垠及び李方子は実在した人物であるが、李方子と早紀江に血縁関係があるという証拠は確認されていない。

 この説は、さらに派生を生み出している。金正恩の名は「日本に正しく恩を返す」 ことを意味するといった説まで浮上しており、北朝鮮は日本の皇族の地位を理解した上で日本の属国であることを 自覚しているのだという。「金正日は日本人であり、 実際は日本の味方である」という都市伝説が存在するのだが、この説に通じるようなものであると言えるだろう。
 
 しかし、これらの皇族説は憶測の域を出ない。そしてそれは、解決まで途方もなく長引く事態の中で生み出された、ある種の「 願望」の投影にすぎないように思われる。2020年には、横田めぐみの父滋が死去した。どれほどの苦悩と無念を抱えていたのかは想像を絶する。 いかなる都合や事情があったにせよ、拉致は到底許されることではない。

【参考記事・文献】
【政略結婚】「李垠皇太子と李方子妃」「 金正日総書記と横田めぐみさん」
横田めぐみさんの母は皇族ではない
https://okkochaan.com/ yokotamegumi-haha-kouzoku/
【文 ナオキ・コムロ】

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文=ナオキ・コムロ(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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