社員が次々と死亡・負傷する謎のビルで働く男の実話がヤバイ! 実話怪談「忌み地に就くべからず」

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イメージ画像は「Getty Images」より引用

 日曜日、午前10時を過ぎても河野さんが出社しないので、9時から待っていた井原さんは少し心配していた。

 昨日、河野さんが帰るところには井原さんも居合わせた。死んだ目をして、全身に黒い影を張りつかせたような彼の姿に、いつにも増して厭なものを感じた。

――家で息子さんとうまくいっていないから、気が休まるときがないのだろうな。気の毒に。きっと疲れて、寝過ごしているに違いない。

 そう思って他のスタッフと作業していると、正午過ぎになって、ようやく河野さんから電話があった。

「悪い、悪い! ちょっとゴタゴタに巻き込まれちゃって、今、〇〇警察署にいるんだよ。午後2時か3時には、また電話できるから!」

 軽く爽やかな口調で一気にそう言うので、電話を受けた井原さんは、「わかりました。こちらは大丈夫ですから、ご心配なく」と、つい応えて受話器を置いてしまったが、切ってしまってから、もう少し詳しく話を聞きだしておくべきだったと後悔した。

 そこで、自宅で休んでいた田村さんを電話で呼び出して、河野さんの台詞を一言一句違わずに伝えた。

 田村さんはその日の夕方から入る予定になっていた。彼が出社したとき、河野さんはまだ来ていなかった。午後3時はとっくに過ぎている。「変だな」と田村さんは心配そうに呟いて、廊下に出るとどこかへ電話した。

 井原さんは、〇〇警察署に問い合わせたのではないかと察した。しかし田村さんは部屋に戻ってきても、「河野さん、今日は来れないようです」としか言わなかった。

――実はこのとき、河野さんは逮捕されていた。

 警察署で事情聴取を受け、そのまま署内で逮捕されたのである。容疑は傷害と過失致死傷罪。土曜の夜、帰宅した彼は義理の息子を浴室で殴って全裸にし、倒れたところへ冷水を浴びせて監禁した。気絶したので放置して床に就いたが、翌朝、先に起きた妻が浴室の戸を開けてみると、すでに息子は息絶えていたということだ。

 河野さんは、再婚した直後から息子に度々、暴力を振るっていたらしい。高校受験が目前に迫り、息子の成績に不満を覚えると、虐待がエスカレートして、とうとう最後にはこんなことになった。

――という顛末をすべて塔山さんが知ったのは、事件から数ヶ月後のことだった。

 刑事事件として裁判を受けた後、結局、河野さんは過失致死傷罪で刑務所に収監された。

 1年ほど前に大阪府で非常に残酷な虐待死事件が発生してマスコミで大きく取り上げられていた時分のことだ。それに比べると、河野さんの事件は新聞でもごく小さな扱いで、テレビのニュース番組に取り上げられることもなかった。

 河野さんがいなくなってから数ヶ月後、田村さんが急死した。

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