【実話怪談】いわくつきの船、自殺した同僚の声、笑う女の顔が…!! 元航海士が語った“海上の怪異”
――もう一つの経験について教えてください。
H氏:実は同僚Aさんが自殺したんです。彼は、私が船に乗り始めた頃から、すでに一等航海士でした。真面目な性格で、きちんと制服を着こなし、知識も豊富で秀才肌の人でした。でも、そのせいかもしれません。うつ病を患ってしまい、一年ほど休職していたんです。しかし、復職した彼と再び仕事をすることになりました。以前と変わりなく職務をこなす彼には病の影はありませんでした。 ある休日、別の仲間が退職することになり送別会を開きました。当然、自殺した同僚Aさんも来ていました。あまり酒を飲む印象もない同僚が、なぜかその日だけは異様にテンションが高く、珍しく二次会にも参加していました。
翌日、さあ再び仕事だ、と乗船したのですが、Aさんが出てこない。「あぁ、さては飲み過ぎの二日酔い、遅刻かな」と思いました。しかし、彼は自宅で自殺していた。会社と警察からの連絡が来たとき、本当に驚きました。昨日、あんなに皆と楽しく過ごしたのに……。全乗組員にとって、大きな衝撃であり、深い悲しみでした。
でも世の中は非情なもので、船の運航を止めるわけにはいかない。運航要員は足りていたんですが、急遽、Aさんの当直シフトに、私が入ることになったんです。当然、船内には重く悲痛な空気が漂っています。そのせいか、皆、つとめて彼の話題には触れずに黙々と職務をこなす。
――船員悲話ですね……。そして何が……?
H氏:深夜になり、当直ですから、淡々とレーダーを観測していました。すると、なにか隣に気配がする。ふと視界の端に、操作盤に寄りかかる手と袖口が見えた。同僚Aさんがいつもきちんと着こなしていた制服の腕の部分である、一等航海士の袖章、3本の金モールが見えたんです。不思議と恐怖は感じませんでした。「あぁ最後に当直しに来たんだなぁ」と思い、静かに心のなかで彼の冥福を祈り、黙祷を捧げました。
翌朝、当直も終わり、コーヒーを飲みながら別の船員に昨晩の話を伝えました。「Aさん当直に来たよ」、すると同僚は驚いて「えっ? 俺もAさんが夢に出てきました」と言うんです。二人とも本当に驚きましたよ。でもね、詳しく聞くと怖くなってきました。どうやら同僚の夢にAさんが出てきて「一緒に行こうよ」と笑顔で誘ってきたらしい。同僚は驚いて飛び起きた。時計を見ると午前二時頃。実は、私が操作盤でAさんの腕を見たのも同じ頃だったんです。私がいたのは操舵室ですよ……。Aさんは、一体、船をどこへ向かわせようとしていたのでしょうか……。
取材後、H氏は、大きな海難事故に遭うも奇跡的に助かった。無論、事故とAさん目撃の関係は不明である。しかし、以後、H氏が「霊」を感じることはなくなり、いまは転職して別の仕事をしているという。
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