娘を殺された母親がたった1人で麻薬カルテルの犯人集団に復讐! 尾行、潜伏、追跡、衝撃の結末…

Klaus HausmannによるPixabayからの画像

 警察や軍はもちろんのこと、政治家さえもあてにならないと言われるメキシコで、自らの危険を顧みず、娘を殺した犯人を自力で探し当てたひとりの母親がいる―――。

 彼女の名は、当時20歳を迎えたばかりの娘を誘拐されたミリアム・ロドリゲスさん。身代金の要求に応じる形で麻薬カルテルのリーダー格と面会するも、二度と愛娘との再会を果たすことはできなかった。

 事件から数年の月日が流れ、牧場跡地で発見された大量の遺体のなかから娘のカレン・ロドリゲスさんの遺骨の一部が見つかったのだ。最愛の娘の死を知った母は「必ず犯人を見つけてみせる」と誓った。ここからミリアムさんの復讐劇が始まる。情報化社会となって久しい現代で、彼女の大きな武器となったのはSNSだったという――。

 麻薬カルテルが暗躍し抗争を繰り広げるメキシコでは、一般市民もその犯罪に巻き込まれることが多いのだが、国防長官が一部カルテルから賄賂をもらって便宜を図っていたという疑いがあるなど、警察や軍は当てにならない存在に成り下がっている現実がある。そんな中、娘を殺された1人の母親の行動が話題になっている。彼女は危険を顧みず、自らの手で愛する娘を殺害した犯人たちを1人ずつ探し当てたのである。

 メキシコでは犯罪組織による身代金目的の誘拐事件が多発しており、実に7万人もの人々が行方不明になっているという。当地の銀行には身代金支払いのためのローンが存在するというのだから、いかに誘拐が身近なものであるか、考えるだけでゾッとする話である。

 2012年、タマウリパス州サンフェルナンドのカレン・ロドリゲスさん(当時20歳)が誘拐された。犯人グループは母ミリアム・ロドリゲスさんらの元に身代金を求める電話をかけてきて、家族はなんとかお金を工面し、カレンさんを無事に返して欲しいと懇願した。しかし、犯人たちは一向にカレンさんを返そうとはしなかった。ミリアムさんは麻薬カルテルのリーダー格と面会し、便宜を図ってくれるよう頼んだが、この男も金だけ受け取って連絡を絶ってしまった。

 それから2年後の2014年、牧場跡地で見つかった大量の遺体の中から、カレンさんの遺骨の一部が見つかった。娘の死を知った母は、必ず犯人を見つけてみせると誓った。

 ミリアムさんは経営していた小さなアパレルショップを畳み、犯人を追い詰めるためにあらゆる手段を尽くした。彼女の大きな武器となったのはSNSであった。犯罪者がSNSに自撮り画像を投稿することは珍しくない時代である。

 最初の手がかりは、身代金要求時の電話から微かに聞こえた「サマ」という名前だった。ミリアムさんは「サマ」という名前をSNSで検索し、誘拐の協力者としてすでに判明していた男と一緒に写真に収まるサマという男を見つけた。ミリアムさんはサマと一緒に写っていた女性の服装から近くの街のアイスクリームショップを特定、その店を数週間張り込んで、ついにサマの居場所を特定した。

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ミリアムさんが集めたサマの写真。画像は「The Sun」より引用

 だが、それだけでは警察は動いてくれない。そこでミリアムさんは髪を切って赤く染め、世論調査員を装ってサマの周辺をさらに探った。そうして集めた証拠はついに警察を動かしたが、逮捕状が発行された時にはすでにサマは姿を消していた。だが、2014年の9月、ミリアムさんの息子がたまたまサマを発見、ついに逮捕へと至った。

 サマの証言から共犯者の名前がいくつも明かされ、ミリアムさんはさらに調査を続けた。医療従事者や選挙管理人になりすまし、犯人の家族と接触、その情報を収集し続けたのである。

 犯人の中にはすでに死亡している者、刑務所に入っている者もいたが、中には故郷に戻って敬虔なクリスチャンとして生き直している者もいた。ミリアムさんはその祖母に接触し、彼が通っている教会を突き止め、警察に通報した。逮捕される時、この男はミリアムさんに泣いて慈悲を求めたという。だが彼女は「お前らが私の娘を殺した時、お前の慈悲の心はどこにあった?」と言い返したそうだ。

 最後に捕まえた男は、事件後に麻薬カルテルから逃亡し、アメリカとメキシコを行き来して花の行商をしていた。ミリアムさんはこの男のSNSを一年にわたって監視し、親類を探し当てて周辺を探り、銃を持って待ち伏せした。男はミリアムさんに気付いて逃亡したが、追跡の末に捕らえることに成功、背中に銃を押し付けて「逃げたら殺す」と脅し、警察が来るのを1時間近く待ったそうだ。

 ミリアムさんはカレンさんの誘拐殺人事件に関わった犯人のうち、生きている者のほとんどを逮捕させることに成功した。その数は10人にも及び、ミリアムさんの「偉業」は多発する犯罪に苦しむ市民を熱狂させ、同じく家族が行方不明になっている人々を勇気づけた。

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ミリアム・ロドリゲスさん。画像は「The Sun」より引用

 だが当然のことながら、メンツを潰された形の犯罪組織側も黙ってはいなかった。最後の男を捕まえた数週間後の2017年5月10日の母の日、ミリアムさんの自宅が襲撃され、彼女は12回も撃たれて殺害されたのである。

 サンフェルナンドでは今も身代金目的の誘拐が後を絶たないという。ミリアムさんが立ち上げた行方不明の家族を支援する団体は、今は息子のルイスさんが引き継いで活動を続けている。麻薬カルテルが抗争を繰り広げており、多くの罪のない人々が巻き添えを食っている現実は続いているが、己の身の危険を顧みず娘の仇を打ったミリアムさんの意思もまた生き続けているのだ。

参考:「Daily Star」「The Sun」「NY Times」ほか

 

※当記事は2020年の記事を再編集して掲載しています。

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