生きたニワトリを押し当て、尿を浴びる…… 黒死病時代に人々が本気で信じた「狂気の治療法」5選

1346年から1353年にかけて猛威を振るった黒死病(ペスト)は、世界で推定7500万〜2億人の命を奪ったとされる史上最悪級の疫病だ。
ヨーロッパだけで人口の最大半分を失ったとも言われている。ワクチンはおろか、まともな医学知識すら存在しない時代、人々は成す術もなく、あらゆる「治療法」に藁にもすがる思いで頼った。
その中には、現代の感覚からすれば正気の沙汰とは思えないものも少なくない。当時本気で信じられていた5つの治療法を見ていこう。
生きたニワトリを押し当てる「ヴィカリー法」と血を抜く発想
医師トーマス・ヴィカリーが広めたとされる方法は、なんとも奇妙なものだった。生きたニワトリの背中と尻の羽をむしり取り、その剥き出しの皮膚を患者の腫れ上がったリンパ節に押し当てて縛り付けるのだ。
ニワトリが体調を崩せば、それは病気が患者からニワトリへ移った証だと信じられていた。弱ったニワトリは取り外され、別のニワトリで治療が繰り返される。ニワトリか患者、どちらかが力尽きるまで続けられたという、当時最もポピュラーな治療法のひとつだったとされる。
もうひとつ広く行われていたのが、「悪い血」を体外に排出するという発想の瀉血だ。富裕層は専門の施術者によるヒルを使った瀉血を受けられたが、農民にはそんな余裕はない。体に小さな切り込みを入れ、カップに血を溜める簡易的な方法で済まされた。
温めたカップを肌に押し当て、感染を体の表面に引き出そうとする「カッピング療法」も、同じ発想から生まれたものだ。
尿と糞便のペースト——排泄物にすがった人々
病魔から逃れるためなら、自分の体から出るものすら治療薬になり得ると信じられていた。患者の体には尿と糞便を混ぜたペーストが塗られ、尿を浴びたり、飲んだりする者すらいたという。
驚くべきことに、医師たちは「清潔な」尿を集めてきた者に報酬を支払っていたとも伝えられている。他人の尿を治療に転用するという発想は、現代の衛生観念からすればおよそ理解しがたいものだ。

「万能薬」の名の下に——アヘン入りの秘薬と水銀・砒素の毒杯
富裕層の間では、「テリアック」と呼ばれる謎の調合薬が重宝された。最大80種類もの成分を練り合わせた液体、あるいはペースト状の薬で、その中にはアヘンが大量に含まれていたとされる。シロップを加えて液状にしたものは「トリクル」と呼ばれ、材料の高価さゆえに手にできるのは一部の富裕層に限られていた。
一方で、より過激な手段に走る者もいた。水銀や砒素という、人体にとって極めて有毒な物質を、一縷の望みにすがって摂取したのだ。
これらは実際にはペストそのものよりも患者の内臓を蝕み、体を衰弱させる結果になったと伝えられている。「毒をもって毒を制す」という発想が、皮肉にも患者の命を縮めていた可能性が高い。
余談だが、英語圏で親しまれている子供の遊び歌「Ring Around the Rosy」に登場する「花をポケットいっぱいに(pockets full of posies)」という一節は、当時の人々が花を懐に忍ばせ、その香りで病気を防ごうとした風習に由来するという説がある。恐怖の記憶が、無邪気な童謡に姿を変えていたのかもしれない。
科学も医学も及ばなかった時代、人々は動物にも、排泄物にも、猛毒にも等しく望みを託した。それだけ黒死病がもたらした恐怖と絶望が底なしだったことの裏返しでもあるだろう。そもそも、藁にもすがるとは言うが、ニワトリと毒杯まで持ち出す必要はなかったはずだ。
参考:Mental Floss、ほか
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