「これ以上は無理」と言語学者が匙を投げた11の古代文字。ヴォイニッチ、ロンゴロンゴ……専門家が「解読は望み薄」と結論づけた書記体系の数々

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 現在地球上に存在する文字は、いずれ解読される運命にあると思っている人は多いかもしれない。だが実際には、言語学者が長年挑んだ末に「これ以上は無理だ」と正式に匙を投げた古代の書記体系が、少なくとも11種類存在する。

「新しい決定的な証拠が出ない限り解読は望み薄」という見解が、研究者コミュニティで半ば公式に共有されている文字体系すらあるのだ。今回は、そんな「読めないまま眠り続ける」古代文字の全貌を紹介しよう。

比較対象ゼロ、たった一つしかない「孤独な文字」たち

 まずは、同じ様式の資料が他に一つも見つかっていない「天涯孤独」の文字体系から見ていこう。

1. ファイストスの円盤

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 1908年、クレタ島のフェストス王宮跡で発見された粘土製の円盤。螺旋状に241個の記号が刻まれ、種類は45種に及ぶ。手彫りではなく、あらかじめ作ったスタンプを押す技法が使われている点も興味深い。

 だが世界中どこを探しても同種の遺物は他に見つからず、かつて「クレタのロゼッタストーン」ともてはやされたこの円盤は、今では研究者の間で「言語学の底なし沼」と呼ばれている。文字ではなく儀式の道具や盤ゲームではないかという疑念も根強い。

2. カスカハルの石塊

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Cascajal-text Michael Everson / Jon C / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons

 2006年にメキシコで発見され、「アメリカ大陸最古の文字」として話題になった石版。平らな石の表面に62個の記号が整然と列をなし、繰り返し登場する記号も見られる。だが同じ様式の資料は他に一切なく、サンプル数はたったの1つ。統計的な仮説検証すら不可能な状況だ。

 多くの専門家は本物のオルメカ文明の遺物と認めつつも、「分類不能のまま完全に凍りついた文字」だと位置づけ、解読の試みは行き詰まっているという。

3. シンガポール・ストーン

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National Museum of Singapore / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

 シンガポール川の河口で発見された砂岩の石碑。19世紀に爆破され、現存するのはわずかな破片のみだ。刻まれた文字は南アジア・東南アジアの既知の文字体系のどれにも綺麗に当てはまらない。ナーガリー文字やカウィ文字に無理やり当てはめる試みもあったが、字形が似ているだけの牽強付会な解釈にとどまった。

 原本の破壊で手がかりの回収可能性はさらに狭まり、多くの専門家が「確実な解読の見込みは限りなくゼロに近い」と見なしているという。

巨大文明はなぜ「言葉」ごと消えてしまったのか

 一方、栄華を極めた大文明が遺した文字でありながら、いまだ読めない書記体系も少なくない。

4. インダス文字

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World Imaging自ら撮影, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

 古代エジプトとメソポタミアを合わせたよりも広大な版図を誇ったインダス文明。ハラッパーやモヘンジョダロ出土の印章や土器には、短い記号列が刻まれているが、多くは3〜7文字程度と極端に短く、文法や単語の切れ目を統計的に検出するには情報量が足りない。そもそも本当の意味での「文字」なのか、交易や氏族を示す非言語的な記号に過ぎないのかという論争すら決着していない。

 約100年の発掘と分析の末、研究チームが辿り着いた結論は「もっと長い文章が必要だが、それはもう残っていないかもしれない」というものだった。

5. 線文字A

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Ursus投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

 クレタ島に伝わり、解読済みの線文字Bよりも古い時代の文字体系。字形の多くは線文字Bと重なるのに、記録する言語はまったくの未知だ。研究者たちはアナトリア諸語やセム語族、さらには失われた語族との関連を模索したが、いずれも実を結んでいない。

 現存資料の大半が宗教的な奉納品や会計記録のリストで、言語特定の決め手となる人名がほとんど登場しないことも壁になっている。学界では「音は読めるが意味は分からない」状態が長く続いている。

6. 原エラム文字

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Marie-Lan Nguyen (2009), CC 表示 2.5, リンクによる

 紀元前3000年頃の古代イランで使われていた文字。楔形文字によく似た見た目で、多くの粘土板には物品の数量や配給の記録が刻まれている。しかし「簡単なはず」の数字や商品名の部分すら、いまだに大半が判読不能だ。

 後の時代のエラム語文献との時間的な隔たりが大きく、同じ言語を指しているのかさえ疑わしい。画像解析や機械学習を駆使した国際プロジェクトが進められたが、たどり着いた結論は「まったく新しい証拠が出ない限り、完全解読は望み薄」というものだった。

7. エラム線文字

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By Frank, Carl (1881-1945) – ZUR ENTZIFFERUNG DER ALTELAMISCHEN INSCHRIFTEN Published 1912, Public Domain, Link

 原エラム文字と記号の一部を共有する、現存資料が極端に少ない文字体系。何度も「解読された」との発表がメディアを賑わせてきたが、多くの主要な研究者は依然として懐疑的だという。

 有力とされる読み方の多くは考古学的に推測された王の名前が根拠で、文字そのものの分析だけで導かれたものではないという弱点を抱える。記号の読み方をめぐる専門家間の対立も大きく、同じ文章でもまったく違う「翻訳」が乱立している状況だ。

そもそも「文字」だったのかさえ怪しい記号たちとは

 ここからは、「読めない」以前に「そもそも文字なのか」という根本的な問いから逃れられない記号群だ。

8. ヴィンチャ文字

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Nikola Smolenski / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

 バルカン半島の新石器時代の土器に見られる小さな刻印。記号は不規則で、多くの場合単独で現れるだけで、文章のように構造化された並びで登場することはほとんどない。

 本物の文字体系に特有の一貫した配列規則を欠いているため、これを「真の文字」と呼ぶべきか、文字以前の「原文字」に過ぎないのかという議論自体が決着していない。

 言語学者たちはヴィンチャ文字を「せいぜい原文字」と呼び、解読の可否を論じる以前の段階にあると位置づけている。

9. オルメカの散在する記号群

 メキシコのオルメカ文明期の石斧や小像、祭壇などに、ぽつりぽつりと刻まれた記号たち。数が少なく孤立していることが多く、長文や繰り返しの定型句、対訳資料は一切存在しない。文字や音節記号として解読を試みても、決まって「データ不足」という同じ壁にぶつかる。

 一部の通俗的な記事は散発的な記号を強引につなぎ合わせ、壮大な「オルメカ文字体系」が存在するかのような物語を作り上げてきたが、専門家たちはそうした姿勢に警鐘を鳴らしているという。

10. ロンゴロンゴ

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Stéphen-Charles Chauvet / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

 イースター島に伝わる木製の板に刻まれた、ループ状の独特な字形を持つ文字。一行ごとに板を180度回転させながら読む特殊な方式で並ぶ。

 現存する遺物は30点に満たず、放射性炭素年代測定では1493年から1509年頃という結果が出ており、ヨーロッパ人の到達より200年以上前だ。

 最大の悲劇は、この文字を読み解けたとされる最後の世代がすでに失われていること。現地の専門家たちは外部からの侵入や強制移住、改宗によって命脈を絶たれ、意味の通った文章として確実に読まれた例は、今のところ一つも報告されていない。

「学術的にほぼ放射性物質」——伝説の写本ヴォイニッチ手稿

 そして最後に紹介するのが、解読不能文字の象徴ともいえる存在だ。

11. ヴォイニッチ手稿

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Beinecke Rare Book & Manuscript Library, Yale University / Public Domain / Wikimedia Commons

 15世紀に書かれたとされる「ヴォイニッチ手稿」。未知の文字で埋め尽くされたこの写本には、見たこともない植物のイラストや、入浴する人物らしき挿絵が数多く描かれている。

 統計的に分析すると実在する自然言語に近いパターンを示すというが、そのパターンは精巧な悪戯や無意味な疑似テキストでも再現可能だとも指摘されている。

 数十年にわたり数え切れないほどの「解読された」との報道が繰り返されてきたが、確定的な解決には至っていない。

 アルバータ大学の研究チームはこれを「最も手強いタイプの解読問題」と評したという。あまりに多くのアマチュア理論が飛び交うせいで、まともな歴史言語学者ほどこの手稿から距離を置くようになり、ある研究者はその状況を「学術的にほとんど放射性物質のような扱いだ」と表現したそうだ。

 比較対象がいない、話者がいない、そもそも文字かどうかも怪しい——解読を阻む理由は文字体系ごとに異なるが、共通しているのは「これ以上の手がかりはもう地中に埋まっていないかもしれない」という研究者たちの諦念だ。

 AIによる統計解析が全盛の時代になってもなお、これだけの数の文字が誰にも読めないまま眠っている。人類は宇宙の果てを覗く望遠鏡を手にしていながら、足元の遺跡に眠る先祖からの手紙一枚、いまだにまともに読めていないのだ。

参考:Discover Wild Science、ほか

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