9歳女児転落事件が起きた「N地区」の怪!謎の空き家、白骨遺体…川奈まり子の実話怪談『怪の棲む土地』(後編)

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川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。

画像は「Getty Images」より引用


【三十六】『怪の棲む土地』(後編)

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 さて、この謎めいた事件の当事者である彼女(姉)の同級生に、佐藤さんという人がある。この佐藤さんが大学生の頃、つまり今から5、6年前の春のことだ。

 佐藤さんの実家は、9歳女児転落事件の現場マンションと同じN地区にあった。

 マンションは目と鼻の先と言っていいご近所で、姉妹とは幼馴染、姉の方とは長年、親友同士だった――。「だった」と過去形で語るわけは、佐藤さんが県外の大学に進学してからは物理的にも心理的にも距離が生まれてしまったせいだ。

 佐藤さんがNに帰ってくるのは、大学が休みのときだけだった。

 このときは春休みだった。

 帰省した若者にありがちなことだが、家でぐずぐずしていると親に何かと用事を言いつけられたり、無闇に話しかけられたりする。そこで地元の同級生と遊ぶなどして逃げ場を確保するわけだが、友だち甲斐がある奴はそんなに多くない。

 そこで無意味に散歩などをして家から逃げ出す。

 佐藤さんも、まさにそんな具合で、実家の近所を散歩していた。

 黄昏時だったから、夕飯の時刻までに帰るつもりで、のんびり歩きまわり、あまり行ったことがない住宅街の路地を無闇に分け入るなどして、軽い冒険気分で楽しんでいた。

 そうしたところ、ヒョイと目の前に一軒の家が現れた。

 角地に建った家である。

 敷地の周囲がブロック塀に囲まれていて、外壁の上半分と瓦を葺いた屋根が塀から覗いている。古い平屋の日本家屋で、今どきあまり見かけなくなった模様のついた凸凹ガラスが嵌った窓があった。窓の奥は、暗く沈んでいる。屋根や外壁がひどく傷んでいて、庇に見たことがないほど大きな蜘蛛の巣が張っていた。ブロック塀も、苔だらけで汚い。

 空き家だ、と佐藤さんは見当をつけた。

 そして、ブロック塀に沿って歩いてみたところ、出入りできる門のようなものがまるで無いことがわかったので、確信を深めた。

 なにしろ、隣り合う家との境にもブロック塀があるのが見え、どこにも途切れ目が無いのだ。どうやっても出入りできそうにないのだから、人が住んでいるわけがない。

 従って空き家だ。変わったことをするものだ、とは思うが、まあ、こうしておけば侵入されづらいことは確かだ……。

 子どもの頃から暮らしてきた町だが、こんな家があることには、今まで気づかなかった。

 ……と、このように、佐藤さんはごくシンプルな好奇心から、この家をしげしげと眺めていた。塀に沿って中を覗きながら歩いていたわけだ。

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