レーザーで空中に「光る機体」を作り出せる —— ハーバード大教授が唱えた「Tic Tac型UFO」正体説と、その弱点

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 空に浮かんでいた白い物体は、そもそも「物体」ですらなかったのではないか——UFO研究の世界で今、そんな仮説が議論を呼んでいる。

 強力なレーザーを空気に撃ち込むと、光り、赤外線を放ち、レーダーにも反応する「プラズマの筋」が生まれる。しかも米海軍は、この現象をミサイル回避のおとりに使う特許を保有している。

 仮説の標的となったのは、現代UFO史上もっとも有名な事案。2004年の「Tic Tac(ティックタック)」だ。

「翼もローターもエンジンもない」——2004年ニミッツ事案が残した宿題

 2004年11月、太平洋上。空母ニミッツの打撃群に所属するパイロットたちが、巡洋艦プリンストンの近海で奇妙な飛行物体に遭遇した。

 証言によれば、それは滑らかな白い塊で、翼もローターもエンジンも見当たらなかった。市販の菓子「ティックタック」に似た形状から、この呼び名が定着している。パイロットのデビッド・フレイバー氏をはじめとする複数の目撃者が、広い距離を一瞬で移動する動きを報告した。

 ただし、この事案は「定規を添えて撮った1枚の写真」ではない。公開されているのは証言とレーダー記録、後の赤外線映像であり、センサーの諸元や物体との位置関係は表に出ていない。

 つまり、物体までの距離も見かけの速度も、正確なところは誰も測れていない。説明を試みる者は全員、この空白と向き合うことになる。

空気を電離させる「プラズマの糸」と、米海軍の赤外線デコイ特許

 強いレーザーパルスが空気中を進むと、通り道の分子が電離し、細いプラズマの通路が生まれる。プラズマとは電気を帯びた気体のことだ。

 厄介なのは、プラズマが「光る」だけでは済まない点だ。赤外線を放射し、レーダー波にも干渉するため、肉眼・赤外線カメラ・レーダーのすべてに「何かがいる」と思わせる条件が、原理上は揃ってしまう。

 そして米海軍は、赤外線ミサイル対抗手段としてのレーザー誘起プラズマフィラメントの特許を保有している。固体のデコイを射出する代わりに空中へ熱源の「署名」を描き出し、熱追尾ミサイルを機体から引き離す発想だ。

 天体物理学者のアヴィ・ローブ氏が近年提示した仮説は、この技術を2004年の事案に重ねるものだ。強力なレーザーが物体に見える発光構造を作り、それが機体と誤認された可能性はないか。翼もエンジンも見えなかったのは、そもそも機体が存在しなかったからではないか——というわけである。

5メートルの実験室と、数十キロの空

 ただし、この仮説には越えられない壁がある。

 まず規模の問題だ。2018年に「Nature Photonics」誌で報告された研究では、長波長レーザーによって空気中に「メガフィラメント」と呼ばれる構造が生成された。電離した通路の長さは約5メートル、赤外線で光る領域を含めても約30メートル。実験室の成果としては目覚ましいが、数十キロ先の空に浮かぶおとりとは桁が違う。

 次に、形の問題。フィラメントはレーザーの進路に沿って細長く伸びるもので、放っておいて滑らかなカプセル形になる代物ではない。加えて、強力な光源と精密なビーム制御、レーザーと観測者が都合よく並ぶ条件も要る。

 そして時系列の問題。海軍の特許が公開されたのは2004年から数年後だ。機密研究が先行していた可能性は否定できないが、当時その形で技術が存在したことを示す公開情報は確認できていない。

 さらに、似た目撃報告は何十年も前から世界各地で繰り返されてきた。ひとつの地上由来のメカニズムが一部を説明できたとしても、カテゴリ全体を畳むことにはならない。

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「起こりうる」と「実際に起きた」の間にある深い溝

 ローブ氏自身、この事案が解決したとは主張していない。彼が投げかけたのは、強力なレーザーは物体に見える発光構造を作れるのか——その一点だ。

 答えは「原理としてはあり得る」。だが、成立しうる仕組みが存在することと、その仕組みが実際にその夜使われた証拠があることは、まったく別の話である。

 必要なのは、時刻を同期させた光学・赤外線・レーダー・音響の記録と、実測された距離だ。それが揃わない限り、Tic Tacは複数の説明が並び立ったまま未解決の位置にとどまり続ける。

 もっとも、仮にこの仮説が正しかったとしても、謎が消えるわけではない。2004年の太平洋上で本当にレーザーが撃たれていたのなら、それを撃った「誰か」が確実にいたことになるのだから。

参考:Curiosmos、ほか

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