同じ木に10年以上、石を投げ続けるチンパンジー! 抉られた幹と積み上がる石……科学者が困惑する“腹の足しにならない”奇妙な習慣

ある森には、妙な木が存在する。幹の樹皮だけが深く抉れ、根元に石がうずたかく積み上がっているのだ。人間が作った塚ではない。石を運んできて投げつけているのは、野生のチンパンジーである。しかも彼らは、10年以上にわたって同じ木に通い続けている。西アフリカ・ギニアビサウのボエ国立公園で今も続く、霊長類最大級の「意味不明」な習慣を紹介しよう。
幹は削られ、根元には石の山。「投石の木」で起きていること
この行動には「累積的投石(accumulative stone throwing)」という、そのままな名前が付いている。確認されているのは西アフリカのわずか4つのチンパンジー集団のみだ。
その様子は、複数の研究機関が参加する「パン・アフリカン・プログラム」が設置したカメラに記録されている。2016年に学術誌サイエンティフィック・リポーツで発表されたヒャルマー・キュール氏らの研究によれば、石を投げるのは主に成獣のオスで、決まった木の幹めがけて石を放り、しかも同じ幹に何度も戻ってくる。
投げる際、彼らは「パントフート」と呼ばれる大きな鳴き声を上げる。遠くの仲間に居場所を伝えるための声だ。さらに、木の板根(ばんこん)を手足で連打する「バットレス・ドラミング」を伴うこともある。
パントフートも板根ドラミングも、オスのチンパンジーが行う典型的な誇示行動である。つまり投石は、もともと存在した「オレはここにいるぞ」というアピールが、なぜかローカルに派生した変種ではないかと考えられている。
なぜ「その木」でなければならないのか
不可解なのは、石も木もアフリカの森にはいくらでも転がっているという点だ。それなのに、この行動が見られるのは特定の地域だけ。しかも同じ集団の中でさえ、投石の的になるのは特定の木に限られる。
環境要因だけでは説明がつかない。だから研究者たちは、これを集団ごとに受け継がれた「文化」ではないかと考えている。
道具を使う霊長類は珍しくない。石でナッツを割る集団はよく知られている。だが投石はまるで性質が違う。食べ物を得るための行為ではなく、完全に社会的な文脈で発生しているのだ。腹の足しにならない行為に、10年以上も律儀に通い続ける。人間で言えば、毎年同じ場所に石を置きに行くようなものである。
石を積む霊長類は、人類の「聖地」の起源を映しているのか
ヴィクトリア大学のロビン・ナカノ氏とアミー・カラン氏の研究チームは、この謎を追ってボエ国立公園に入った。拠点はオランダのNPO「Chimbo」が現地パートナーと運営する太陽光発電の研究施設があるベリ村。そこから自転車と徒歩で22キロ、サバンナ林の奥にキャンプを設営した。
ボエのチンパンジーは人慣れしておらず、人間を避ける。直接観察は不可能なため、チームは投石地点ごとにカメラと録音機材を仕掛け、毎朝6時半から巡回してSDカードを交換し、木を計測し、石を3Dスキャンする日々を送った。
そして分かったことがある。パン・アフリカン・プログラムが最初に見つけ、2017年にも確認された地点の多くが、2026年の再訪時にもまだ「現役」だったのだ。
過去の研究では、この行動が一種のコミュニケーションであるとか、群れのテリトリー内で象徴的な意味を持つ場所を示している可能性が指摘されてきた。考古学者にとっても興味深い題材だ。石を繰り返し使い、積み上げた結果として、それを作った当人が去った後も物質的な痕跡が残る——人類が塚や石積みを築いてきた行為と、構造だけを見れば驚くほどよく似ている。
チームが集めた映像は今後、投げているのがどの個体か、年齢や性別はどうか、周囲のチンパンジーがどう反応するかの解析に使われる。縄張りの誇示なのか、遠距離通信なのか、それとも全く別の何かなのか。答えはまだ出ていない。何の得にもならない場所に十年通い続ける動物は、そういないだろう。
参考:The Debrief、ほか
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
関連記事
人気連載
“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...
2024.10.02 20:00心霊同じ木に10年以上、石を投げ続けるチンパンジー! 抉られた幹と積み上がる石……科学者が困惑する“腹の足しにならない”奇妙な習慣のページです。アフリカ、チンパンジー、投石などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで