催眠術で本当に人が死んだ衝撃の事件とは!?死体に蘇生を試みるも… 驚愕の展開

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“催眠術師”という存在が今よりずっと(魔術師と混同されるなどして)玉石混合だった時代、よりによって“催眠ショー”の最終演目で盛大にしくじってしまった先達がいた。今から115年も前の出来事である。

■催眠術ショーで最悪のハプニング

 1909年11月8日の宵。米ニュージャージー州サマーヴィルにあった「サマーヴィル・オペラ・ハウス」には、稀代の催眠術師アーサー・エバートンを一目見ようと観客が詰めかけていた。ドラマティックに登場したエバートンは、今夜最初のボランティアを観客の中から募った。スッと手を上げたのは、ロバート・シンプソン35歳。昼間はピアノの運送をしている男だった。しかし、実はこの男は「リーダー」だった。当時、興行につきもののサクラを「リーダー」、「ホース」と呼び、一番乗りに扮してもらっていたわけだ。

 シンプソンがトップバッターで催眠をかけられると、観客は我も我もとボランティアに名乗りを上げた。彼らは自らの意に反して犬やサルとなり、見る者はゲラゲラと大笑い。とうとうショーも大詰めを迎え、最後のボランティアとなった。すると、興奮状態にあった観客もさすがに自分が大トリを務めることには尻込みをしたという。そこで、シンプソンが再び挙手。グランドフィナーレを飾ることとなった。

 ラストの出し物は、催眠術をかけられた人が2つの椅子の座面に水平に寝かせられ、硬直するというスタントだった。

「固くなれ!」

 エバートンが数回暗示を与えると、シンプソンの全身が硬直した。2人の助手が彼の身体を運び、距離を開けた2脚の椅子で彼の頭と足を支えた。鋼となった一直線のボディの腹の上にエバートンが乗り降りして見せ、拍手喝采。最後は、助手たちがシンプソンを直立させ、華麗な身のこなしのエバートンが彼の前でパンと手を打ち、叫ぶ。

「リラックス!」

 次の瞬間、グニャグニャになったシンプソンの身体は支えていた助手たちの手からスルッと滑り落ち、片方の椅子にぶつかったかと思うと、そのまま床に崩れ落ちてしまった。

 観客は、思わず息を呑んだ。これがパフォーマンスの一部なのか判別できず、中には拍手する者もいたが、すぐに演出ではないことがわかった。なぜならば、エバートンが横たわったシンプソンに飛びつき、必死に医者を呼び始めたからだ。その間、エバートンはシンプソンをトランス状態から解放しようと試みたが、まるで無反応。

 居合わせた医師がシンプソンの死亡宣告をしたが、エバートンは自分のスタッフの死を認めなかった。「彼はまだトランスが解けていないだけ。一種の深い仮死状態にある」と言い放ち、もっと時間があれば蘇生させられると医師や当局を説得した。しかし、何時間が経とうとシンプソンは息を吹き返さすことはなかった――。

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■どこまでも胡散臭い催眠術師

 その後、エバートンは過失致死の罪で起訴されたが、シンプソンの死を受け入れられなかった催眠術師は「もう1回チャンスを与えてほしい。私の友人なら、このハンパ仕事を最後まで成し遂げる」と訴えたという。

 当局もかなり困惑したそうだが、失うものは何もないと考え、催眠術師にしてコロンビア大学名誉教授のウィリアム・ダベンポートに連絡を取ることを許可。ダベンポートは、この奇妙な依頼に興味を持ち、同意したという。

 死体安置所に到着したダベンポートは、さっそく死体に催眠術をかけた。

「ボブ、ボブ! 君の心臓! 聞こえるか、ボブ! 君の心臓! ほら、ボブ! 心臓が動き出したぞ。よし、始まった。見ろ! おまえの心臓は鼓動を始めている。いいかい、ボブよ。おまえさんの心臓の動きは強いぞ。ボブ、おまえの心臓はもうビートを刻んでいるのだ!」

 だが、心臓はピクリともせず、シンプソンは蘇らなかった。もはやこの男は完全に死んでいることが明らかになり、エバートンは刑務所に逆戻りしたが、それでも仮死状態説を曲げなかったそうな。

 ところが、事態は一転する。奇跡的にエバートンは釈放されたのだ。検視官がシンプソンの死因を「大動脈破裂による事実上の即死。彼がトランス状態から覚めた直後に起こった」と断定したからだ。かなりグレーな判断ではあったものの、催眠との因果関係を実証するには至らなかったという。

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アーサー・エバートン 「Journal of the Bizarre」の記事より

 その後、表舞台から遠ざかったエバートンだったが、一度だけ、禁酒法時代に酒の密造で逮捕されたらしい。その際も「催眠術で警察を止めることもできたが、それはしなかった」と、どこまでも胡散臭かったそうだ。それからのエバートンがどうなったか、誰も知らない。下手をすれば殺人犯になっていたかもしれない催眠術師。存外、シンプソンの本当の死因に心当たりがあったのではあるまいか。まぁ、すでに墓まで持っていってしまったのだろうが。

参考:「Mysterious Universe」、「Journal of the Bizarre」、ほか

 

※当記事は2021年の記事を再編集して掲載しています。

文=佐藤Kay

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